2011年7月20日水曜日

職業生活における目標設定の効果に関する実証的研究

[タイトル]
職業生活における目標設定の効果に関する実証的研究

[著者]
窪田 由紀

[掲載]
実験社会心理学研究, Vol.21, No.2, pp.149-157, 1982.

[アブストラクト]
本研究の目的は現在の職業生活への適応の度合いに及ぼすキャリア目標設定の効果を検討することであった。回答者は390名の民間企業組織体の従業員であった。本研究で検討した仮説は次の通りであった。
(1)将来の職業生活に主体的に目標を設定している者(目標設定群)は目標を設定していない者(無目標群)に較べて現在の職業生活によりより適応を示すであろう。
(2)目標設定群のうち、現在の職務遂行が目標達成に結びついていると認知しているものはそうでない者に較べて適応的であろう。
(3)現在の職場環境条件と現在の職業生活適応度の関係は目標設定群よりも無目標群についてより強いであろう。
得られた結果は次の通りであった。
仮説1,2はおおむね支持された。すなわち、人は職業生活に目標を設定しているとき、そして現在の職業遂行に高い道具性を認知しているとき、現在の職業生活によりよい適応を示した。職場環境条件と職業生活適応度の関係の強さに関する結果は明確でなかった。仮説3については更なる検討が必要とされた。
次の段階としては、以下の3つの要因による目標設定効果の違いに関する条件分析的研究が必要であることが論銃いられた。目標設定する課題の複雑さの程度、目標の困難度、目標の時間的広がりがその要因である。さらに目標設定を促す要因についての検討の必要性が述べられた。

[キーワード]
目標設定、キャリア目標、職業生活、ワーク・モチベーション、期待理論、目標設定理論

[要約・感想]
要するに、
自身のキャリアに関する自分自身の目標(もっと簡単に言えば、自分なりの自己実現の目標)を描けている人にとっては、現在の職場環境条件(給与や労働条件など)よりも、今の仕事が自分のありたい自己実現像と結びついていると思えるかどうかが、現在の職務により強く動機づけられる。また、そう思えていれば、とともに、たとえ環境条件が良くないと思っていたとしても、その悪印象は職業生活への適応の度合いを低下させることはないだろう。

逆に、自分なりの自己実現像を持たない人は、現在志向的となり、現在の職業生活への適応度の良し悪しは、職場環境条件の認知に強く影響されるであろう。

結果はというと、・・・まあ、それはアブストラクトの通り。

結果は、まあ、そうなんだ。。。という感じで受け止めるしかないが、その後の考察がなかなか面白い。
(1)何らかの将来に対する目標を持っているか、という点だけでも、職業生活への適応や仕事へのパフォーマンスを高めることが示唆されている。理論的には、実現可能性や手段的適切さのようなものも効いてくるのではないか、目標をどこまで具体的にブレークダウンして実現可能な目標にしているのかが効いてくるのではないか(要するに、夢は動機づけを高めないが、目標は動機づけを高める)と思われるが、結果から見れば、とりあえず「夢」を描いているだけでも効果がある模様。これは面白い。

(2)目標を設定している人は職業生活に対する適応度も高く、モチベーションも高いことがわかったとして、次の実践的課題は「目標を持っていなかった人に目標を設定させるにはどうすればよいか」である。これは非常に難しい。おそらく、持っていない人に持てと言ったところで、まったくピンと来ないだろう。考察でも述べられているが、そもそも「設定させる」という表現があやまり。各人が主体的に目標を設定するには、外側の人間(本人ではない我々)は何をすべきか?

(3)(2)の問題についての今後の研究の進め方も面白い。キャリア目標を設定するようになったキッカケがどのようなものなのかの事例収集を通じて見つけられないか、という考え方。これは、現在の文脈で言えば、コンピテンシーにつながる話だろう。

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