2011年7月15日金曜日

「自尊感情」を関係性からとらえ直す

[タイトル]
「自尊感情」を関係性からとらえ直す

[著者]
遠藤 由美

[掲載]
実験社会心理学研究, Vol.39, No.2, pp.150-167, 1999

[アブストラクト]
自尊感情は心rに学におけるもっとも重要な概念の一つでありながら、これまで自尊感情とは何かという議論はあまり行われてこなかった。本稿では、これまで明示的に示されることがほとんどなかった自尊感情に関する従来の考え方を探り、伝統的な「自己」が現実世界の社会的状況や人間関係性から切り離されすぎていたという問題点を指摘した。次に、最近提唱されつつある自尊感情への生態学的・対人的視点をとったアプローチを紹介し、これまで整合性のある説明を与えられなかった点について、新たな観点から議論した、最後に今後の研究課題と意義を提唱した。

[キーワード]
自尊感情の概念、関係性、対人的視点、文化、社会

[要約・感想]
非常に興味深く読めた論文。

自尊感情がこれまで頻繁に論文で取り上げられながら、その概念がどのようなものなのかの明確な議論がこれまでなされていなかった。

従来の自尊感情の捉え方は「安定的統合的自己」観に基づいたもの。
論文の中にある記述を引用すると、
「自分の内側にさまざまな望ましい属性がある場合、それを自分自身で自覚的にとらえ評価した結果、「私は価値ある人間だ」という安定的な自尊感情が自己の内側に生じる」
この考え方の根本にあるのは、
心理学のセントラル・ドグマ、すなわち、「自分のことは自分が一番よくしっている」や、社会環境、文化なども自己を構成する「要因」(相互作用する、ではない!)として中心には「自己」があるとする捉え方がある。
「我々人間に課せられた課題は真の自己を発見し、それを伸びやかな形で外に発現させることであるから、自分の目に自分自身の姿ができるがで隈なく薄し出されるようにすることがd重要であり、そうすれば自分があるべき姿からどれほどズレているかを把握でき、自分の行動を制御することによってずれを是正して適応的に生きられる」とうする意識的自己完結的自己理解の仕方。
→プロテスタンティズムが背景にあるのか?達成することを至高体験と表現する考え方。献身的であることを望ましいとする考え方。

一方で、この論文で筆者が主張するのは、
自尊感情はあくまで社会・文化との相互関係の中で生じてくるもの。
端的に表している記述が、
「自尊感情が高いということは、それぞれの状況において望ましいとされることを自分が実現でき、自己と周囲の世界との間に適切な関係を持っていると思うことできること」
ここでは「それぞれの状況」という言葉がポイント。
これによって
「その人がどのように世界を見ているのか<->環境がどのような情報をその人に示しているのか」
によって「望ましいこと」のその人の中での基準が変わるし、それによって自尊感情も変わる。

この感情を進化論的にも考察している。
「社会集団からの排除の危険性をより低減したいという動機」が人に存在している。このことから「(帰属したいとその人がおもっている)社会で信奉されちえる価値を実現しているとみなされ、「有効な人間だ」と人々から認められる集合的営為的過程によって、周囲の世界の中に適切な位置を確保し続け、関係性を維持したい、という動機」が生まれ、そこから自尊感情が生じている。

あくまで一般論としての自尊感情。

ただ、ここから勝手に考えを進めると、
ある社会の中で自尊感情をもてないときには、
1.その社会がその人にとってあくまで「帰属したい組織」「帰属しなければならない組織」という信念が強い場合、自尊感情がもてないことが個人の要因に帰着されてしまい、不適応状態・ストレス状態、いわゆる自信喪失状態につながる。
2.その社会がその人にとってあくまで「帰属したい組織」「帰属しなければならない組織」という信念がそこまで強いものでない場合には、その組織に対する遠心力が働く。すなわち、その組織とは異なる、自尊感情を保てる組織に対して帰属しようとする。

結局、自尊感情とは関係性、有能性というものと結びついた感情ということか。
なにをもって有能とするかは、関係性によって決まる。行き着く先はすべて関係性、社会・文化によって決まる。

0 件のコメント:

コメントを投稿