2011年11月8日火曜日

看護師の働きがいの構成要素と影響要因に関する研究

[タイトル]
看護師の働きがいの構成要素と影響要因に関する研究

[著者]
船越 明子, 河野 由理

[掲載]
こころの健康, Vol.21, No.2, pp.35-43, 2006.

[アブストラクト]
看護師の働きがいの構成要素と影響要因を明らかにすることを目的として、急性期病院に勤務する看護職を対象に仕事に対する働きがいについて無記名の自由記述による調査を実施し、1209名から回答を得た。質的分析を用いて自由記述で得た回答を元に、働きがいについて関連するものをまとめてサブカテゴリー・カテゴリーを抽出した。次に、働きがいの構成要素と影響要因という視点でカテゴリーを構造化した。その結果、カテゴリーは、働きがいを構成する心理的実感と働きがいに影響を及ぼす業務上の経験および職場環境に分類された。働きがいを構成する心理的実感として≪患者・家族への親近感≫≪患者・家族に対する自己存在感≫≪達成感≫≪コントロール感≫≪自己成長感≫≪自己効力感≫が分類された。働きがいに影響を及ぼす業務上の経験としては、≪治療の進行に伴う患者の状態の改善≫≪患者・家族からのポジティブフィードバック≫≪困難な状況の改善≫≪看護に対する他者の良好な評価≫≪看護業務の遂行≫≪高い看護技術の発揮≫≪患者・家族と触れ合うケア≫が、職場環境として≪良好な人的環境≫≪良好な労働条件≫≪職場環境の整備≫が分類された。さらに、サブカテゴリー毎に回答した対象者の数を集計し、対象者の属性別の比較を行った。その結果、職位別と所属別において、働きがいの特徴に違いが見られた。看護師の働きがいを向上させるためには、それぞれの職位、所属の特徴にあった取り組みが必要であることが示唆された。

[キーワード]
働きがい 急性期病院, 看護師, メンタルヘルス

[要約・感想]
ジャンルは違うが結構ヒット!!
論文の論点・・・
「看護師の働きがいとはどういうことを実感することなのか、働きがいを感じる状況はどのようなときなのか、といった働きがいの構成要素とその影響要因についてあきらかにすること」
⇒ まさに自分の研究テーマと同じことをテーマにしている

研究にあたって、働きがいを以下のように定義している。
「自分の看護業務に対する肯定的な意味づけ」
⇒ これまた同じような定義・・・

研究の方法・・・
自由記述によるアンケート。KJ法による分類。

結果・・・
働きがいを構成する具体的な心理的実感として、
  「患者・家族への親近感」「患者・家族に対する自己存在感」「達成感」
  「コントロール感」「自己成長感」「自己効力感」
これらは、「働きがい」を具体的にしめしたもの。すなわち、「これらを感じれる時」=「その人が働きがいを感じれている時」
⇒なお、実際には、これらすべてではなく、人によってどの要因が重要かは違うことに注意!!
つまりマスとしての話であって、個人レベルでは、これらに対しては当然順位付けが人によって違う

働きがいを感じるために必要な条件としては、
 経験面では
  「治療の進行に伴う患者の状態の改善」「患者・家族からのポジティブフィードバック」
  「困難な状況の改善」「看護に対する他者の良好な評価」「看護業務の遂行」
  「高い看護技術の発揮」「患者・家族と触れ合うケア」
 職場環境面では、
  「良好な人的環境」「良好な労働条件」「職場環境の整備」


⇒ここでは、条件として「経験」「環境」を、結果として「Affection」を持ってきている点が秀逸・・・。
この分け方だと確かに因果だ。勉強になるなぁ・・・。

以下は考察からの引用・・・・・・・
「自分の仕事に働きがいをもっている場合、看護師は精神的に安定した状態で看護業務を実施でき、安全で質の高いケアを患者に提供することが可能となるのであろう」
⇒ 既往論文と本研究から、働きがいとメンタルヘルスの関連について言及し、メンタルヘルスが良好である(少なくとも悪くない)ことが質の高いパフォーマンスには必要であるという言及。あくまで実証結果ではなく考察。

「急性期病院に勤務する看護師は、治療によって患者の病状が良くなり、患者とよいコミュニケーションがとれ、患者・家族から笑顔や感謝の言葉を得るという業務上の経験を通して働きがいを実感する」
⇒端的に結果から考えられるものをまとめている。

「職位、所属の特徴にあった取り組みが必要」
⇒職位や所属によって、働きがいにつながる経験の内容が異なっているという研究の結果からの言及。具体的には・・・
「スタッフとして働く看護師には、多忙な看護業務に追われる中で、如何に患者・家族と向き合うかという点におけるサポートが必要」
「管理職には看護管理面でのサポートが働きがいを向上する取り組みとして有効である」

「看護師とビジネスマンを比較した研究では、人間関係に関する項目に回答したビジネスマンが約5割であったのに比し、看護職員では約9割を占めたと報告している・・・看護師における人間関係は、患者・家族との関係性に加えて、看護師内の上下関係、医師との関係、他のコメディカルとの関係などきわめて複雑かつ特殊である・・・看護師の働きがいを考えるとき、患者・家族および医療従事者内の意思疎通や相互理解といった人間関係の質は、もっとも考慮すべき重要な視点であろう」
⇒ 人間関係という点で、誰に対する人間関係なのか、その人間関係において良好なものとはなになのか・・・これはまさにこれからの課題。

2011年11月3日木曜日

行動随伴性から見た社会人の働きがい

2回目に読んだら、結構いいことを書いている。

すなわち、「働きがい」を感じる人では、「直接仕事に関係する作業をすること」「ほめ言葉」「人が喜ぶ姿」が影響を与えているということが示されている。
この「直接仕事に関係する作業をすること」という点がポイント。つまり、その人が「これは自分の仕事」と思っている仕事については、その仕事に関わる作業に対してはモチベーションが高く、その作業をすることそのものへの満足度が高い、ということ。

一方、「家庭と仕事の両立にやりがいを感じる」という点については、「働きがい」という点ではなく、「生きがい」という点、生きることへの満足感、自分の人生への満足感というまた別の(一段上の?)満足感で捉えているということだろう。

行政機関で働く保健婦の主体性およびコミュニティ影響力への関連要因 : 経験年数による分析

[タイトル]
行政機関で働く保健婦の主体性およびコミュニティ影響力への関連要因 : 経験年数による分析

[著者]
門間 晶子

[掲載]
名古屋市立大学看護学部紀要 1, 27-37, 2001-03

[アブストラクト]
本研究の目的は,保健婦のエンパワメントの下位概念としての主体性およびコミュニティ影響力について,経験年数によって分析することである。保健婦を対象として質問紙調査を実施し,191名(40.6%)の回答から以下の結果を得た。
1)主体性は13項目のうち1項目を除き,コミュニティ影響力は7項目すべてにおいて,経験年数の増加に伴って得点が有意に増加していた。
2)主体性を促進する要因は,経験10年未満群では自己充実的達成動機が高いこと,他職者へよく相談すること,同道(複数)訪問の機会が少ないことであり,経験10年以上群では働きがい度が高いこと,他職者へよく相談すること,職位があることであった。
3)コミュニティ影響力を促進する要因は,経験10年未満群では事例検討の機会が多いこと,自己充実的達成動機が高いことであり,経験10年以上群では他職者へよく相談すること,働きがい度が高いこと,未婚であることであった。
保健婦の主体性やコミュニティ影響力を高めるためには,事例検討や関連職種への相談が行いやすく,働きがい度が高められるような職場環境の整備が必要である。

[キーワード]
地域看護活動、保健婦のエンパワメント、主体性、コミュニティへの影響力、経験年数

[要約・感想]
行政機関で働く保健婦を対象にした研究。
「主体性(自身や組織の成長・発展のために主体的に取り組む姿勢)をもち、住民、コミュニティ、政策に働きかけていくコミュニティ影響力をもっている」ということを保健婦のコンピテンシー(論文ではエンパワメント)とし、このコンピテンシーについて経験年数ごとにどのようなものが影響を与えるのか、をアンケート調査を通じて分析した。結果は上記の通り。
分析は非常に厳密にやってて、その内容についてもよく整理されて書かれているので、それは参考になる。
まあ、ふ〜ん。。。という感じ。

なお、「働きがい」という点では、「働きがい度」を主体性ととコミュニティ影響力の説明変数として用いている。「働きがい度」を測るアンケートとして「家庭の雰囲気」「仕事の満足度」「職場の雰囲気」「職場の人間関係」「余暇時間の利用」「将来に対する希望」の6項目を挙げている。このほか、「自己充実的達成動機(他者・社会の評価にとらわれず、自分なりの達成基準への到達を目指す傾向の強さ)」「職業満足度」「生活満足度(毎日の生活に満足していますか)」を主体性とコミュニティ影響力の説明変数としてあげている

日本人の「生きがい」と「働きがい」に関する史的考察

[タイトル]
日本人の「生きがい」と「働きがい」に関する史的考察

[著者]
乾 修然

[掲載]
産業衛生学雑誌, Vol.46, No.2, p.65, 2004-03-20

[アブストラクト]
わが国の労働衛生思想の根拠は4期に分けて考えることができる。(1)戦前=恩恵的慈恵的思想 (2)戦後=労働者保護思想、(3)高度経済成長期=能力開発思想、(4)現代・近未来=人間的労働(生きがい・働きがいに?がる)思想。国家存亡の危機をはじめ、その時々に編み出されてきた日本人の知恵と思想を基礎として、時代毎に「生きがい」「働きがい」観の形成に強く影響した。(1)儒教・道教等=日本国家誕生、(2)仏教・キリスト教=末法思想到来、(3)国学=徳川幕府解説、(4)尊皇・攘夷=元禄太平、(5)文明開化=幕末・開国、(6)富国強兵・殖産興業、(7)民主主義=敗戦。既に21世紀に入ったこれかの日本における労働衛生の重要な課題は「生きがい・働きがいのある職場づくり」となることは間違いないと思われる。「生きがい・働きがい」観は多様であるが、聖徳太子による建国以来、時に応じて選択されてきた思想を基盤に、新時代にふさわしい「生きがい・働きがい」論が求められている。

[キーワード]
Nothing

[要約・感想]
研究会発表の議事録。アブストラクトがそのまま記載の全文。

まあ、なんというか・・・。

同僚からの職場無作法がネガティブ感情および職務満足感・職務逃避行動に及ぼす影響

[タイトル]
同僚からの職場無作法がネガティブ感情および職務満足感・職務逃避行動に及ぼす影響


[著者] 
櫻井 研司、スティーブ・エム・ジェックス、マイケル・エー・ギレスピー
(JEX M. Steve ,  GILLESPIE A. Michael)


 [掲載] 
産業・組織心理学研究, Vol.25, No.1, pp.13-23, 2011


[アブストラクト]
Based on Affective Event theory (Weiss  & Cropanzano, 1996), the current study developed and tested a model examining the mediation effects of negative emotion of the relationship between coworker incivility and both job satisfaction and work withdrawal behavior. In addition, the study investigated the relationship between supervisor ostracism and the frequency of incivility among employees. Analysis based on a structural equation modeling (N=693) suggested that employee negative emotion mediates the relationship between coworker incivility and both job satisfaction and work withdrawal behavior. Result also suggested that supervisor ostracism is positively related to coworker incivility. Finally, from a stress management perspective, the study investigated and showed a significant interaction effect of interpersonal justice perception for the relationship between negative emotion and work withdrawal behavior. Result and future implications of the study are discussed.


[キーワード]
職場無作法、労働者の感情、職務満足感、職務逃避行動
workplace incivility, employee emotion, job satisfaction, work withdrawal behavior


[要約・感想] 
職場無作法という言葉に興味がいたく惹かれた論文。これぞ、まさに「斜に構える風土」!!
中々内容も面白い!!


結論をまとめると、要するに、
職場での無作法な行動(加害者の攻撃的意図が不明確なものの、社交的ルールに反した職場での非礼な対人行動)が多い職場においては、そこで働くメンバはネガティブ感情(人間関係面からくるストレス)を感じやすくなり、それが職務に対する満足感を低下させたり、職務からの逃避行動(暗黙に許容されている以上の休養をとってしまう)を増加させる
というもの。
さらに、
職場での無作法な行動の頻度は、上司による部下統率面での能力の低さからの影響を受ける
組織が自分のことをリスペクトのある待遇を接してくれていると感じている人(対人公平性の認知)は、そうは感じていない人と比べて、無作法な行動によってネガティブな感情が生じたとしても、職務からの逃避行動をとる傾向は抑制される。


ここでの対人公平性の認知は、組織からの承認の認知であり、組織へのロイヤリティやコミットメントと結びつけて捉えても良いだろう。


以下は、考察からの抜粋。。。
「上司の部下統率に欠ける行動が高いと認識する労働者ほど、その職場において職場無作法を頻繁に経験すると言うことが分かった。しかし当然のことながら、筆者らはこの結果を根拠として、部下それぞれの職場無作法を上司に責任転嫁する意図はない。しかし、上司の重要な職務能力の一つに職務チームの管理が含まれる。また既存の研究から職場の雰囲気や部下の職場での行動に対して上司は強い影響を及ぼすことも分かっている。したがって部下と率先して交わる、コミュニケーションを図るなど、上司の行動によって部下同士の対人行動へ肯定的な影響を及ぼすことは可能である」


要するに、あくまで今回の結果は、部下の職場での無作法な行動が出るかでないかは上司のリーダーシップの影響もあり得るということ。間違いなくそれのみが原因だ、ということではなく、一要素だといっている。


また、アンケートによる共分散構造分析を用いていると言う点からの言及で、「本研究は横断研究であり、因果関係を証明するのではない。したがって今後縦断調査により、職場無作法と、労働者の職務行動の因果関係をより明らかにすることが課題である」という記述がある。ご尤も!!