2010年11月10日水曜日

自動車の運転支援システムが目指すべき姿について

が[タイトル]
自動車の運転支援システムが目指すべき姿について

[著者]
丸茂 喜高

[掲載]
電子情報通信学会技術報告SSS2009-10,pp.17-20,2009

[アブストラクト]
本稿では、自動車の運転支援システムはどのようにあるべきかについて議論する。従来の運転支援システムは、事故を未然に防ぐように直接的にドライバを支援しているが、リスクホメオスタシス理論によると、当初狙っていた効果を得ることは期待できない。そこで、運転を直接的に支援するよりも、ドライバの安全運転に対する動機付けを行なうような間接的な運転支援システムを提案する。さらに、安全運転の議論に加えて、燃費運転や交通流の改善に対する運転支援についても述べる。

[キーワード]
運転支援システム、リスクホメオスタシス理論、安全運転、動機付け、フロー理論

[要約・感想]
自動車の分野で安全運転を如何に引き出すかを論考した論文。
結構、自分と近いことを考えてられる。

同意できる点・感じた点としては、
・何らかのシステムを導入する場合には、支援システムを入れた場合の日常的プラクティスがどのようなものとなるのかの予測、あるいは、それの設計が必要。

・運転支援がモチベーションを下げることも考えられる点については、「自分のタスクと捉えるかどうか」「自分の存在意義を何処に見出すか」に掛かっているのではないか。ACCを入れることによって、前方注意は自分のタスクとは思わなくなるのかもしれない。そうなったときに、自分の存在意義をどう捉えるか。何となく、安全確認など周囲の環境への注意を注ぐモチベーションも下がる、というのはないように思う。ただ、行動レベルで見た場合に「運転に対する注意の向け方が変る(低下する)」「周囲に注意を向けるという行動が減る」ということは起るかもしれない。それは他に注意を向けることになったことの裏返しとして。しかし、行動が見られなくなったからといって、それは「積極的に注意を向ける意思が損なわれた」とは言えないように思う。つまりモチベーションが下がったとは言えない。おそらく「注意を向ける意思はあるし、それは変ってない」だろうから・・・。

2010年10月19日火曜日

医療現場における「改善」を目指した創造的活動のデザイン

[タイトル]
医療現場における「改善」を目指した創造的活動のデザイン

[著者]
山口 悦子 (旧姓:中上 悦子)

[掲載]
日本グループダイナミクス学会第57回大会発表論文集, pp.48-49, 2010

[アブストラクト]

[キーワード]
改善、QCサークル活動、芸術活動支援、病院ボランティア活動支援

[要約]
  大阪市立大病院にて、看護士や医師、その他のスタッフの間での創造的協働を引き出すためのアクションリサーチを行なったとのことで、その中で「創造的協働の形成」の過程についての得られた知見が発表された。以下、その要旨。
病院における部局・セクションを横断した活動としてQC活動や、ボランティア活動支援活動、芸術家活動支援活動という活動を構築する、ということを目的とした介入を行なった。そこで、「医療改善のために、QC活動や、ボランティア活動支援、芸術家活動支援をやりましょう」という説明の仕方で当初行なっていたが、中々活動に参加してもらえなかった。

そこで、「ボランティアさんが上手く動けるような形で、日常業務を行なってください」や「芸術家さんが芸術活動を成功させられるような形で、日常業務をやってください」、QC活動に対しては「他の病院職員が上手く働けるような形で、日常業務をやってください」という説明をすると、すんなり受け入れられた。

ポイントとして、病院組織においては、非常にセクショナリズムが強く「日常の業務」にさらにプラスαが加わることには「内のセクションにはそんなものを受け入れる余裕は無い。ほかでやってくれ!」と非常に強く抵抗するが、「日常の業務割り当てを組み替える」ということに対しては意外なほどすんなりと受け入れられる、ということであった。

この前者と後者をそれぞれ活動理論に依拠してまとめると、以下のようになる。

              (道具)
             ┌┘ └┐
           ┌┘     └┐
   芸術家  ┌┘         └┐
(主体)ボランティア——————(対象→結果)患者→より良い医療
   他の職員└┐         ┌┘ └┐     
    ┌┘    └┐     ┌┘     └┐ 
  ┌┘        └┐ ┌┘         └┐ 
(ルール)——————(集団)————————(分業)

           (道具)新体制に対する現行業務の適用
               他の病院で使われているQC手法
             ┌┘ └┐
           ┌┘     └┐        ・QCサークル支援
         ┌┘         └┐         ⇒サークルメンバ
(主体)医師・看護士——————(対象→結果)・芸術活動支援支援
      ┌┘└┐         ┌┘ └┐     ⇒芸術家
    ┌┘    └┐     ┌┘     └┐ ・ボランティア活動支援
  ┌┘        └┐ ┌┘         └┐ ⇒ボランティア
(ルール)——————(集団)————————(分業)
           ボランティア・芸術家
           他の部職員

前者の構図では、活動の意義は分り易いが、分業やルールが曖昧となる上に、ツールが決まらない。職員と芸術家が主体となって患者を対象に働きかける時には、職員は一体何をすれば良いかわからなくなる。
それに比べ、後者の構図では、分業すべき相手・ツールが明確なり、ルールも自ずと決まってくる。つまり、やることが明確になるので、各自が自律的に動くようになる。また、日常の業務に新しい何かを加えるというのではなく、日常の業務をそういうものにしてください、ということによってメンバの抵抗も少なくなる。

 (藤野が以下に質問を行なった。)
Q:病院メンバに対してQC活動への動機づけ喚起のために、具体的にどのようなことを行ったのか?
A:2点ある。一つは病院の特状としてサービス残業が非常に多い。そこで、QC活動についてはお金をつけるよ、ということを強く宣伝した。もちろん、そのためにまず院長に対して説得を行なった。次いで、何度も勉強会を開いて、「病院側が本気で取り組んで言ってるんだ」という思いを粘り強く伝えていった。

[感想]
まあ、要するに、言い方一つで変る、ということだが、その「言い方」の設計方法の実例をまとめてある、とでもいえようか。

災害体験の世代間の語り継ぎに関するアクションリサーチ−「関係としての自己」の視点から−

[タイトル]
災害体験の世代間の語り継ぎに関するアクションリサーチ−「関係としての自己」の視点から−

[著者]
矢守 克也

[掲載]
日本グループ・ダイナミクス学会第57回大会発表論文集, pp.6-9

[アブストラクト]


[キーワード]
自然災害、語り継ぎ、アクションリサーチ、関係としての自己

[要約]
災害体験の語り継ぎ活動についてのアクションリサーチ。消防隊員の親子が語り部となったケースと、共に教師をしている師弟が語り部となったケースについて報告し(聞き手はいずれも小学生)、それらの実際に行なわれた語り継ぎ活動の特徴と意義を、「徹底した関係主義に基づく自己語り」の理論をベースに考察している。
具体的に、本アクションリサーチから得られる理論的示唆として、以下の4点を挙げている

(1)『語りは個人の語りである』という常識を乗り越えることである:
個人個人が語る内容も、結局のところ、「語り手」、「語りの中の登場人物」(特に今回のアクションリサーチでははそれが同じ場の別の語り手である点がポイント)、「聞き手」がその場で共同の制作物として存在している。「語り継ぎ」は、このように複数の当事者や関係者による協働の制作物として集合的かつ継承的に生成され、それと同時に、その物語が生活や人生を導く上で重要な「共同の資源」として集合的かつ継承的に活用される場という意味に解さなければならない

(2)我々は自分の人生を物語として語るだけでなく、物語においては他者との関係性の上に存在しており、社会生活は互恵的アイデンティティのネットワークである:
互恵的アイデンティティのネットワークの形成と不断の更新作業は、一見、そのネットワークとは直接関係を持たないと思われる第三者(例えば聞き手)を「重要な媒介」として達成される。今回の例でも、「聞き手」が存在したこと(聞き手に語る場があったこと)によって、「聞き手に語られるものがたり」として「親子物語」や「師弟物語」が顕在化した、と見える。われわれにとっては、自己の物語は、語りの中で直接的に自分のカウンターバート(例えば親子物語における親に対する子、あるいは子に対する親)となる他者は言うに及ばず、聞き手を含む広範な他者たちとの間で張られる互恵的ネットワークに依存して、揺らぎながら形成・維持・変容する。

(3)語りの構成は、生活に意味と方向性を与える:
今回の語りに於いては、聞き手である子供が自分達を「震災体験で何も知らない存在」見なしてしまうことが慎重に回避されている。語りを行なう「親子」の消防士や「師弟」の教師というそれぞれの組の二人の関係は、単に「震災を体験した大人」(何も知らない自分達と対)という存在ではなく、「親子」の「子」の消防士や「師弟」の「弟子」の教師の人々は震災当時は自分達と同じ小学生であったということ(自分達と同じ立場であった)ということや、「親」から見れば「子」は、あるいは、「師」から見れば「弟子」は、今なお、自分達と同様に「震災について知らない存在」であったということから、「子」や「弟子」が自分たちの将来の投影であるという感覚が生じている。すなわち、子供達は「子」や「弟子」へといたるかもしれないルートに乗っている自分という人生(人生のシミュレーションの想像)の物語を入手したことなる。

(4)社会構成主義に徹底するならば、意味を生み出すより広範な社会過程の中の語りこそが強調される:
   (これについては略。)



[感想]
実際に、大会での発表を聞いた。
 ベテランから若手への知識の伝承のあり方の一つとして、「体験の語り継ぎ」という姿があるだろうと考え聴講した。演者は実際の語り継ぎ活動に10年間従事し、その中で「語り継ぎ活動」が上手く行かなかった場面や上手くいった場面に接する中で、「語り継ぎ」とはどのようなものかを整理したとのことであった。以下にその要旨を記す。

「体験の語り継ぎ」は、通常、「人生を語る(人生→語る)場」という視点で捉えられていて、語り継ぎ活動の実際の場面においても、その場の設計は「人生を語る人」・「それを聞く人」という設計となっている。しかし、このような場では語りを聞いた側には実際には「聞いただけ」で何も獲得していない場合が多い。語り「継ぎ」とするためには、「語られた内容から自分の人生を展望する・見つめなおす(語る→人生)」という方向をこそ重視すべきで、この視点に基づいて語り継ぎ活動の場を設計すべきではないか。

 要するに、如何にベテランの話を自分と重ね合わせるか、という点であろう。「語り」のストーリーの中、あるいは、「語り」の場の中に如何に「今の自分」を見出すのか、如何に自分をInvolvementするか、が当事者意識を持った「聞き」を生み出すポイントであり、そのようなことができる「語り」の場や「語りの状況」のデザインが必要である、ということ。

2010年10月8日金曜日

行動随伴性から見た社会人の働きがい

[タイトル]
行動随伴性から見た社会人の働きがい

[著者]
行動随伴性から見た社会人の働きがい

[掲載]
日本行動分析学会年次大会プログラム・発表論文集 (17), 110-111, 1999

[アブストラクト]

[キーワード]

[要約]
7人の協力者にインタビューを通じて、勤務中の行動とその結果、それに対して本人が自分で与えている言語的強化、社会的強化を聞き取り、その聞き取った行動に随伴する結果について、(1)好子か嫌子か、(2)行動内在的か付加的か、(3)生得的か習得的か、について分類した。
その結果から、「働きがいを感じている」協力者においては、直接仕事に関係する作業をすることが、好子出現の行動内在的随伴性の制御を受けていることが確認された。また「褒め言葉」や「人が喜ぶ姿」などの社会的好子が付加する行動随伴性により強化されている場合でも、「働きがい」を感じることが出来るとみなされた。いっぽう、「働きがいがない」という協力者においては、これらの随伴性は見られず、仕事をするという行動はルール支配の随伴性や、好子消失の阻止の随伴性に強く影響されているようである。

[感想]
要するに内発的動機付けや外発的動機付けの内的統制で仕事をしている人は「働きがい」を感じるし、外発的動機付けの外的統制で仕事をしている人は「働きがい」を感じていないということ。

部会員からの報告(1)Resilience Engineering

[タイトル]
部会員からの報告(1)Resilience Engineering

[著者]
藤田 祐志

[掲載]
人間工学専門家部会報, Vol.1(創刊号), p.1, 2004.

[アブストラクト]

[キーワード]

[感想]
Resilience Engineering・・・システムの安全維持に組織の視点から寄与しようとする考え方。回復力のあるシステムを如何に作り上げることが出来るか。自動化などの技術的仕組み、環境条件、従事者の適正や教育訓練、組織論といった従来から議論さえていることの限界を理解した上で、如何に組織のリスクを察知することが出来るか、が議論の中心。

人的多重防護を巡って−Resilience Engineeringの観点から−

[タイトル]
人的多重防護を巡って−Resilience Engineeringの観点から−

[著者]
小松原 明哲

[掲載]
電子情報通信学会技術報告, SSS2006-36, pp.9-12

[アブストラクト]
E.Hollnagelらの提唱したResilience Engineeringは、組織の安全に関して、ヒューマンファクターズのユニークなコンセプトとして注目を集めている。本稿では、Resilience Engineeringの考え方をレビュする。次に、組織構成員の行動が、組織にとって不適切な事態を招いた組織事故として、JCO社臨海事故(1999)、建築強度偽造事件(2005)を取り上げ、Resilienceとの関係について考察する。事例検討に基づき、人間による組織のResilienceは多重防護、多重冗長を果たそうとする態度が関係者になければ、果たされないことを指摘し、最近の社会風潮がResilienceを無効化する共通基盤故障として作業している懸念を示す。

Resilience Engineering which E.Hollnagel et al proposed is a unique human factors approach to organizational safety. The concept of Resilience Engineering is reviewed in this paper. Next, a JCO criticality accident(1999) and a construction forged case(2005) are discussed with a relation to Resilience Engineering. Based on the case studies, this paper points that organizational resilience will not be performed if oragnizatonal members do not have the positive attitude of performing defense-in-depth and redundancy. This paper also indicates an anxiety that the latest social trend that pople tend to have less interests toward others will hinder oganizational resilience.

[キーワード]
人的多重防護, 組織安全, レジリエンス・エンジニアリング
Human defense-in-depth, Organizational Safety, Resilience Engineering

[感想]
レジリエンス・エンジニアリングという言葉は知っているが、いまいち全体像がつかめないので、調べる中で見つけた読んだ文章。
レジリエンス・エンジニアリングというのは、結局チーム・システムの全体で最終的な顕在化事象の発生を抑えましょう、という考え方。
多重の冗長性を持たせたシステムを構築しようという考え方・・・・
というのでよいの??
なんかちょっとまだ良くわからん・・・。

ただ、とりあえず、このフレーズには納得。で、これがあるからこそ、モチベーションやモラールが大切になる。
「組織構成員に、なんらかの予期しない事象に対して、多重防護を果たそうとする意識が無ければ、あるいは、本来それを果たすべき役割者の代わりを果たそうとする人的多重冗長を果たそうとする意識が無ければ、人的Resilienceは「土台無理」ということである」
(若干、へんな日本語だが・・・)

リスク環境におけるドライバと運転支援システムの協調

[タイトル]
リスク環境におけるドライバと運転支援システムの協調

[著者]
伊藤 誠、稲垣 敏之

[掲載]
オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学 Vol.51,No.10, 621-626, 2006

[アブストラクト]
本稿では、多様なリスク環境における人と機械との協調を論ずる。人間の判断をつねに優先する古典的な「人間中心の自動化」の考え方では十分な安全性の確保は難しいことが、これまでの事例や研究から明らかになってきている。これに対して、状況と底でのリスクに応じて、機械が安全確保のために自律的に判断・実行することを許す必要があることを指摘し、その湯構成を示した自動車の運転士縁に関する研究例を紹介する。また、このような動的特性を有する支援が、人に受容され、なおかつ過信や過度な依存をもたらさないようにするために克服すべき課題を述べる。

[キーワード]
人間機械協調, リスク, 自動車, 運転支援, 人間中心の自動化, シミュレーション

[要約・感想]
1.どうも気になるのは、「操作を任せる・意思決定を任せる」という部分の依存ばかりクローズアップされているところ。依存は「状況認識」そのものから起っているのではないだろうか。例えば、「危ないからブレーキを踏め」とか「危ないから前の車に注意しろ」というものは結局、命令であり、動作をするかしないかは原理的には人に選択の余地が与えられているとはいえ、結局、指示に従わなければアウトなのだから、指示には従うだろう。大切なのは、「状況を構成している、その人が検知しえない情報を提示する」といったことなのではないだろうか。

2.根本的には人には「依存・過信」というモードがあるわけではなく、「適応」と見るべき。そのシステムが存在する、ということを前提とした「状況への適応」が起る。人には「状況への対処に必要な注意リソース」を低減させていくメカニズムが備わっている。それが適応。

挙げられている4つの方策はすべて、結局、人の依存・過信を生むのではないか?行動への意思決定を人に委ねるとしても、状況認識は機械も行なっている。いずれ、人の適応のメカニズムから状況認識を機械に依存していく(自分で行なわなくなっていく)のではないだろうか。
それは「依存・過信」としてネガティブに捉えることも出来るが、本質的、ニュートラルに捉えるならば、「社会的認知」「分散認知」として、人がしなければならなかった状況認知を機械の側に分散させた・委譲したものであると捉えられる。人−機械システム全体で、状況モニタリングと運転操作の意思決定がなされている。

(アカン、上手くまとめられんが・・・汗)

「人と機械によるダブルチェック」というように二つのシステムが並列しているような印象があるが、結局本質的には二つのシステムが走っているのではなくて、一つのシステムが走っているだけと捉えるべきなのでは??各サブシステムのロバスト性・信頼性がどのようになるか、色々なサブシステムの構成(人のみ、人ー機械、機械のみ)の中でリスクがどのようになるのかを考えてみるというのも面白いのではないだろうか。というより、そういう観点が必要なのではないだろうか。


3.理想的な状況は、人と機械が2重の監視体制を気付いているということだろうが、これは、運転者と助手席同乗者のナビゲーションをなぞらえているのだろう。なんとなく、相手が人だと、たしかに2重のチェック体制ともいえなくない。ただ、助手席者と機械とで何か本質的な違いというものがあるのだろうか??本質的な違いが無いとすれば、助手席者が機械と同じナビゲーションを行ない続けてれば、いずれは人は助手席者にも依存するようになるのだろうか。。。これを実験で調べてみることは興味がある。
ちょっと既往研究を調査してみようかな。

2010年10月7日木曜日

人が守る安全を考える

タイトル
人が守る安全を考える

著者
小松原 明哲

掲載
JR EAST Technical Review - No.29, pp.1-4, 2009.

アブストラクト

キーワード
レジリエンス・エンジニアリング
要約
期待されたことが果たせなかったことをヒューマンエラーという。
エラー防止のアプローチは今までは2つあった。
(1)個人責任の時代・・・エラーは本人の不注意で、処罰して矯正されるべきもの。態度を入れ替えるための教育をする。
(2)人に頼らない時代・・・人は頼りにならぬもの。出来る限り自動化・機械化を進める一方、人の行動は作業標準を定め、それを徹底するように教育する。

(2)のアプローチは科学的に分り易い(あるエラーが頻発するなら、マニュアルが悪い。ある人がエラーを頻発させるなら、マニュアルの不徹底と考える)が、以下のような限界がある。
(1)作業者の意欲が沸かない。
 人は創意工夫や自己裁量、自分自身の成長があるときに、仕事に対して意欲が沸くもの。マニュアル化が徹底されと、システムが十分に完成されたものとなっていると、やらされ感になる。

(2)設備改善には限界。
結局、改善をやったらやったで新たなリスクが生まれる。どれだけ頑張っても人が絡む以上リスクが0とはならない。また、設備投資の限界という現実的問題もある。

(3)マニュアル爆発
マニュアルが膨大になり、教育に掛かるコストが拡大する。

(4)状況が変動する場合には向かない
変動する状況の一つ一つにマニュアルは作れない。作ったとしても、現実にそれを参照しながら作業を行うことは、ダイナミックに状況が変化する中では不可能。

異常事態を予め想定していたとしても、実際には状況はその場その場で異なる。結局、係わり合いを持った人々の臨機応変な行動によって事故の被害を如何に食い止めるかが重要となる。このような人の柔軟な行動に頼る安全を考えることが必要。これがレジリエンス・エンジニアリングの考え方。

最終的には個人の資質をいかに高めるか。マニュアルの徹底という、具体的な行動の指示ではなく、行動の裁量権を与えた上で、適切な行動の意思決定が行なえるように人のコンピテンシーを高めることが求められる。それは以下の4つをそろえることが大切。
(1)心と体の健康
(2)業務に直結した技術・知識
(3)コミュニケーション力・気付き力など業務を円滑に回す能力
(4)危険感受性、職業人としての誇り・責任感
この4つをそろえるための施策を組織的に講じることが必要。

感想
コンパクトに安全維持の考え方がまとめられている。論文というよりは解説記事といったところだが、非常に分り易い。

2010年10月5日火曜日

ワーク・モチベーションとCSR評価−ハーズバーグの動機付け衛生理論とCSR評価の関係性構築モデル−

[タイトル]
ワーク・モチベーションとCSR評価−ハーズバーグの動機付け衛生理論とCSR評価の関係性構築モデル−

[著者]
上原 衛, 山下 洋史, 大野 �裕

[掲載]
日本経営工学会論文誌, Vol.60, No.2, pp.104-111

[アブストラクト]
現在、CSR(Corporation Social Responsiblity:企業の社会的責任)を重視した企業経営が注目されている。企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者)が企業の持続可能性(サスティナビリティー)を視野に入れたCSRを重視したしてんから、企業経営のあり方を求め始めており、企業は企業価値向上に向けてCSRに取り組み始めている。また、従業員が働きがいを持って仕事に従事すればその企業のCSRも向上させることが出来、一方、CSRを果たしている企業の従業員はCSRに対する意識も高く、ワーク・モチベーションも一層高くなるという正のスパイラルの関係に注目し、本業を通じて社会貢献を行いCSRを果たそうと努力している企業もある。本研究では、ハーズバーグの動機付け衛生理論に基づき、動機付け要因(M因子)追求者と衛生要因(H因子)追求者の違いによって、CSR評価における自社の積極的な施策や戦略である「攻め(Aggressive Criteria)」の評価と自社の内部管理体制やリスク管理体制の「守り(Defensive Criteria)」の評価に差が表れるという視点に注目し、組織内部者のワーク・モチベーションと自社のCSR評価との関係性を簡潔かつ分り易く表現するための新たなモデルと提示する。

[キーワード]
行動科学, ハーズバーグの動機付け衛生理論, M-H因子, ワーク・モチベーション, CSR

[要約]
CSRの評価指標として、「経済面」、「環境面」、「社会面」という3つの縦軸と、「攻めの施策」、「守りの施策」という2つの横軸の、トータルで6つのカテゴリーがある。組織の各メンバにおける、この各カテゴリーの評価の自社のCSRの評価の関係を調べた。具体的には、それぞれの軸を独立しているものとして捉え、各個人の要素を排除した、M因子追求者・H因子追求者別の、自社の攻め施策および守り施策に対する評価のウェイトと、経済、環境、社会のそれぞれに対する評価のウェイトという2つのパラメータを設定し、以下の式で表した。

Y(i;,j) = Σb(k)(Σa(j,l)・x(i;jkl)) + e(i;jkl)
i : 評価者
j : M因子追求者とH因子追求者のタイプ
k : 経済、環境、社会 の 3因子
l : 攻め、守り、社会 の2因子
Y(i;j) : iさんのモチベーションタイプと、自社のCSRに対する総合評価
x(i;jkl) : i さんのモチベーションタイプと、自社の6つのカテゴリー分けのカテゴリーごとの評価
e : 残差

実際にある会社の社員に対して自社のCSRを評価してもらい、その結果から上記の式のパラメータを計算した結果、
(1)M因子追求者に於いては、自社の施策の攻めと守りの両方を均等にウェイトを置いて、総合のCSRを評価していた
(2)H因子追求者に於いては、自社の守りの施策に特にウェイトを置いて自社の総合のCSRを評価していた
このことから、コスト削減や内部管理・リスク管理はH因子としての性格を持つということが分った。

[感想]
色々と疑問が・・・。
最初の概念論はまあ分らなくもない。(なお、ここでの社会的責任は「本業を取り組む」ということと「本業以外で社会に対して支援金を出す・文化事業を行なう(自社の本業の向上につながらないようなこと・ボランティア)」とを分けて考えておく必要はある。)

しかし、そもそも論として、研究の中で一体なにをどのように明らかにしようとしているのかが不明。仮説は「企業のCSRへの取り組みは、従業員のワークモチベーションを挙げるための単なるトリガーであるだけでなく、従業員が働きがいを持ち、ワークモチベーションが高く、活性化している従業員が働く企業こそが社会的責任を果たせるのではないだろうか」という部分だと思うが、これが実証されているとは思えない。

また、具体論として、このモデルを用いて検証したということは、まあ、結果としてそうなった、ということだろうが、なぜこんなけったいなモデルを考えたのだろう??重回帰分析ではダメだったの??それに、このモデルは互いに軸が独立しているという前提を暗黙に立てている気がするが、交互作用はなかったの??決定係数はかなり高い値が出ているとはいえ、他の分析方法(モデル)と比較してこの式が決定係数が高いというのであれば、それを書いてもらわないといけない。

2010年7月29日木曜日

飲食店アルバイトの感情労働と客からの感謝・賞賛が職務満足感に及ぼす影響

タイトル
飲食店アルバイトの感情労働と客からの感謝・賞賛が職務満足感に及ぼす影響

著者
須賀 知美, 庄司 正美

掲載
目白大学心理学研究, Vol.6, pp.25-31, 2010.

アブストラクト
本研究の目的は飲食店アルバイトを対象に、感情労働と客kらの感謝・賞賛が職務満足間に与える影響を検討することである。t検定を行なった結果、各質問項目の得点に性差は見られなかった。勤務期間について1要因の分散分析を行なったところ、新人と中堅、新人とベテランでは勤務期間の長さに差が見られたが、中堅とベテランには差が見られなかった。そのため、調査参加者を新人群と、中堅・ベテランからなる非新人群に分けて各質問項目の得点を比較した。t検定の結果、両者の間で感情労働の"敏感さ"、"ポジティブ表出"および職務満足感の得点に差が見られた。また、階層的重回帰分析の結果、新人群では客からの賞賛が、非新人群では感情労働の"敏感さ"が職務万足感に影響していた。これらの結果から、アルバイト先での立場による感情管理スキルの差が職務満足感に影響していることが示唆された。さらに、本研究の限界や今後の課題について議論がなされた。

キーワード
感情労働, 感謝, 賞賛, 飲食店アルバイト

要約
〔研究目的〕
�飲食店アルバイトを対象に、感情労働と客からの感謝・賞賛が職務満足感に与える影響についての検討
�感情労働や職務満足感についての性差による違いの検討
�新人・非新人(各自が自分をどう認識しているか)の違いによる感情労働と客からの感謝・賞賛が職務満足感の違いの検討

〔測定対象〕
飲食店アルバイト経験のある大学生87名。(男性16、女性71、平均19.9歳(±1.01))

〔結果〕
�性差について
・ 感情労働(「感情の不協和」、「客の感情への敏感さ」、「客へのポジティブな感情表出」のそれぞれについての経験・頻度)、客からの感謝の経験、客からの賞賛の経験、職務満足感について男女差は無かった。
・ 「感情の不協和」については、ネガティブな感情を抑えることであり、これは既往研究と同様の結果であった。
・ 一方、敏感さやポジティブ感情表出はジェンダーに関連し、女性の方が笑顔や気遣いが求められると予想され、これらについては男性より女性の方が経験が多いと予想されるが、今回の結果はその予想と反する。これは、質問項目自体が性差が見られるようなものではなかったためと考えられる。
・ 感謝・賞賛については、客は受けたサービスに対して感謝・賞賛を返すのであって、サービスの提供者の性別には関係が無いためと考えられる。
・ 職務満足については、学生アルバイトという立場では、性別による待遇や評価の差は少ないためと考えられる。

�新人・非新人の違いについて
・ 「客の感情への敏感さ」と「客へのポジティブな感情表出」、職務満足感は、新人よりも非新人の方が得点が高かった。一方、「感情の不協和」、感謝・賞賛については立場の差はなかった。
・ 「客の感情への敏感さ」と「客へのポジティブな感情表出」は、感情管理スキルとも言え、勤務年数の長い人の方がこれらのスキルを習得しているために新人群よりも高いと考えられる。
(今回のアンケートでは「出来る—出来ない」ではなくて、「よくある—全く無い」のスケールなのだから、スキル習得することが、「これらを行なうべきケースだ」という状況認知を鋭敏にするという解釈するのか??でないと、「スキル習得」が「経験が多い」ということとどう結びつくのだ?)
・ 職務満足感は、上記とも相俟って、非新人は、感情管理スキルを駆使することによって、自己や客を操作し、仕事の自律性などを得、それによって職務満足感を得ていると考えられる。
・ 「感情の不協和」は、不愉快な客に対する我慢の経験であり、気遣いや親しさの表出といった「敏感さ」「ポジティブ表出」に比べ、新人であろうと非新人であろうと経験しやすい行動であるためと考えられる。(←ネガティブ感情なことに対しては人はセンシティブだから?あるいは、不愉快なことに対する我慢のスキルは既に新人であってもそれまでの人生の中で身につけている?まあ、これならば納得がいく)
・ 感謝・賞賛については、性差と同様に、客からすれば新人・非新人は関係ない。

�感情労働、客からの感謝・賞賛、職務満足感の関連について
・ 新人・非新人に分けて、それぞれの中で、各項目同士の相関係数を算出。
・ 新人群:「ポジティブ表出—賞賛」(正の相関)
・ 非新人群:「敏感さ—感謝」「敏感さ—賞賛」「敏感さ—職務満足」、
        「ポジティブ表出—感謝」「ポジティブ表出—賞賛」」(いずれも正の相関)
・ 「ポジティブ表出」や「敏感さ」が、客からの感謝・賞賛につながるのは十分納得がいく。
・ 「敏感さ」が職務満足と関連していることについては、既往研究から飲食店アルバイトにとって、「敏感さ」は接客上大切であり職務にとってふさわしい行動であり、感情労働の中で最も重要視している部分であることが明らかになっている。このことから、飲食店アルバイトにとって「敏感さ」は接客上大切であり職務にとってふさわしい行動であると考えていることから、気遣いするほど職務満足感が高められると推測される。

⇒というより、、、「敏感さ」が高い(「敏感さ」を発揮すること(経験すること)が多い)という回答は、職務にとってふさわしい行動を自分は取れていると思っている、ということを示していることであり、「そのような行動を取る」ということと「職務に満足している」ということとは「動機づけ」や「感謝・賞賛」という変数を媒介して何らかの関連を持っているということは十分に考えられる。つまり、「行動を取る」⇒「感謝・賞賛を得る」⇒有能感を持つ⇒「職務満足」という流れや、「職務に満足」⇒動機づけ⇒「行動」など。
まあ、要するに、「敏感さ」と「職務満足」は何らかの媒介変数の存在を考えないことには、直接の因果関係は想像しにくい。要するに擬似相関だと考えられる。

�感情労働、感謝・賞賛が満足感に及ぼす影響(重回帰分析)
・ 新人群においては、「賞賛→職務満足(正の影響)」のみ有意。
・ 特に、感情労働の経験(頻度)から職務満足へのパスは有意ではなかった点について、新人は感情管理スキルが習得されていないため、新人における感情労働は職務満足感に影響するほど強いものではないと推測される。
⇒理由はどうあれ、とりあえず、新人君に於いては感情労働を強いられることと、職務満足とは直接的な因果関係が無いということ。

・ 非新人群においては、「敏感さ→職務満足(正の影響)」のみ有意。
・ つまり、「敏感さ」を示すこと自体が職務満足感に影響を示している、ということ。
・ また、「感謝・賞賛→満足」のパスが有意でなかった点について、ほめ言葉が職務満足感に影響するのは、比較的接客経験の浅い新人期だけであって、客の扱いになれた中堅やベテランにとっては職務満足感に影響するほどのことではないのかもしれない。
⇒これは面白い。、「敏感さ」を示すこと自体が、自分自身の有能感を感じさせ、それを感じれる時間・状況である「職務」に対して満足感を持っているということか。
階層的回帰分析だから、「敏感さ⇒感謝・賞賛⇒満足」というパスも調べられているはず。こちらが有意でないというのは意外。要するにベテランになると、感謝や賞賛は、しょっちゅうもらうものなので、それへの喜び感は失われて、そういう外的な報酬から、自分自身の中から内発的に生み出される有能感や自律感への、満足に影響を与える要因が変っていく。

感想

2010年7月28日水曜日

観光業と職務満足—旅行会社の場合

タイトル
観光業と職務満足—旅行会社の場合
Tourism and Job Satisfaction - The Case of Travel Agents

著者
山口 一美

掲載
立教大学国際学部紀要, Vol.17, No.1, pp.13-27, 2006.

アブストラクト
The purpose of this study was to investigate the relationship among job satisfaction, years of service to the company, years experiences, overtime hours, age, and personalities (self-monitoring, social anxiety, and optimism). 48 staff in travel agents completed a questionnaire of these. A factor analysis on the job satisfaction yield four factors: management satisfaction, human relationship satisfaction, growth satisfaction, and recognition by others' satisfaction. The multiple regression analysis showed that optimism, years experience, and social anxiety were the top three important predictors of job satisfaction.

キーワード

要約
〔研究の目的〕
「満足している従業員は適切な態度で顧客に接する」という仮説を前提に、職務満足に影響を与える要因を同定すること(その要因を元に採用や教育などを施すこと)を目的として、旅行業従事者を対象に、
�職務満足の下位因子(構成概念)の検討(因子分析)
�下位因子と、対象者のバイオフィー(具体的には:性別、勤務年数、経験年数、残業時間、年齢)や対象者のパーソナリティ(具体的には:セルフモニタリング、対人不安、楽観主義)との関係を、相関係数による分析と重回帰分析
の二つを実施した。

なお、セルフモニタリングは以下の2点から構成されるとして、それぞれを要素として取りあげている。
・自己呈示の修正能力
  他者の要望に対して自分の行動を変えることが出来る能力
・他者の表出行動への感受性
  他者の行動に敏感で何が適切かをすぐに見つけ出す能力


〔結果〕
職務満足は、以下の4つの下位因子からなることが分かった。(要するに「今の仕事の内容に満足している」というのは、以下の4つの因子について満足しているということ)
(1)経営満足    :収入、会社の経営や昇進に対する満足など
(2)人間関係満足 :同僚や上司との人間関係への満足など
(3)成長満足    :仕事によって成長する、やりがいがあるなど
(4)承認満足    :仕事に適している、認められているなど
そして、これらの因子間の関係については
経営満足は、他者からの承認など仕事に対する動機づけに関する満足とかかわりがあることが明らかになった。このことから、旅行業において、給与が単なる経済的欲求の充足手段ではなく、仕事の達成度のかくにんや会社からの評価につながることが示された。また、この傾向は女性の方で顕著であり、女性は給与による評価を望んでいることが示された。


職務満足の下位因子とバイオグラフィーとの関係に関しては、男女全体では、以下の2点の間のみ有意な相関があった。
 ・経験年数−人間関係満足(負の相関)
 ・経験年数−成長満足(正の相関)
このことから、職場の人間関係は重要ではあるものの旅行業の業務の場合には、個人的な顧客との対応が主な仕事であることから、仕事自体にやりがいを感じる機会が多く、その仕事を経験し続けることが可能であることが示された。
男女別では、女性については以下の2点の間に有意な相関があった。
 ・勤続年数−経営満足(負の相関)
 ・経験年数−人間関係満足(負の相関)
男性については、以下の1点の間に有意な相関があった。
 ・年齢−承認満足(正の相関)
このことから、旅行業に従事している女性は長く勤務あるいは経験しているものの、給与、会社の経営、人間関係に不満を持っていることが示された。また、人から認められているという感覚が強い男性ほど年齢が高く(年齢が高い男性ほど人から認めれれていると感じている)、また、承認満足の男女差においても男性が高いという結果からも、旅行業における管理者は女性が満足して仕事を続けることが出来るように、処遇制度の見直しや職場の人間関係の整備などを実施する必要があろう。

職務満足とパーソナリティとの関係に関しては、男女全体では以下の点で有意な相関があった。
セルフモニタリングにおける自己呈示の修正能力—成長満足(正の相関)
対人不安−承認満足(負の相関)
楽観主義−経営満足、成長満足、承認満足(それぞれ正の相関)
これらから、旅行業に従事するものは「楽観主義でセルフモニタリングの中の自己呈示の修正能力が高く、対人不安が低い」ことが、満足して積極的に仕事を行っていくために重要であることが示された。サービス業において、セルフモニタリングの中の自己呈示の修正能力が高いというパーソナリティを有していることが重要であるという先行研究を支持する結果であった。

重回帰分析から、旅行業に於いて、以下の2点のパーソナリティを持っていることが、高い職務満足につながるが明らかになった。
・楽観主義傾向が強い、
・(男性では)対人不安が低い
このことは採用の際に、これらのパーソナリティを持っているかに留意することの必要性を示唆しているといえよう。


今後の課題として、
1.給与額や昇給時期などと職務満足との関わりの検討⇒衛生要因である給与がどの程度、満足度に影響するのか
2.公的自己意識と職務満足との関わり、自尊心と職務満足との関わり、など他のパーソナリティとの関わりの検討
 サービス業においては、これらが重要であるという知見がある。
 ※ 公的自己意識:他者から見られる自分を意識する傾向
3.エンパワーメントと職務満足との関係
 エンパワーメントをもつことでどのような職務満足が向上するのか、それが従業者の定着率やロイヤリティにどのような影響を与えるのかを検討するべし。
 旅行業では、個々の顧客のニーズに合わせたホスピタリティを提供する際に、マニュアルで決められた行動のみで体操することが難しいため。
 ※ エンパワーメント:従業者に自分の業務についての決定能力と権限を持たせること

感想
セルフモニタリングを「スキル」ではなく「パーソナリティ」に含めている点には違和感がある。。。まあ、結果は結果で考えれば良いが。

2010年7月27日火曜日

感情労働が職務満足感・バーンアウトに及ぼす影響についての研究動向

タイトル
感情労働が職務満足感・バーンアウトに及ぼす影響についての研究動向
A Review of Studies on the Effect of Emotional Labor on Job Satisfaction and Burnout

著者
須賀 知美, 庄司 正美

掲載
目白大学心理学研究第4号 137-153, 2008

アブストラクト
感情労働が職務満足感やバーンアウトに及ぼす影響については、これまでの研究で一貫した結果が得られていない。本稿は、これまでの研究を概観し、研究対象や測定方法などを整理することを目的とした。その結果、さまざまな職業が調査対象とされ、感情労働の測定指標も様々であることが明らかになった。この測定指標の混在が、一貫した結果が得られてない理由の一つと考えられる。また、感情労働以外の独立変数や調整変数、媒介変数について、仕事の自律性やソーシャル・サポートなどの労働条件や職場環境に関する変数は多いが、パーソナリティや態度のような変数が少ないこと、労働者が感情労働を行なうことによるクライエントや客からの感謝・商人を含めた検討が殆ど無いことが指摘された。また、感情労働と他の変数の交互作用の検討も少ないことが示された。さらに、日本での分件数は外国の分件数と比較するとはるかに少ないことが明らかになった。これまでの研究の問題点に対する今後の課題について言及された。

About the influence of emotional labor on job satisfaction and burnout, empirical studies so far have not found consistent results. The puropse of this article was to review previous studies about the effect of emotional labor on job satisfaction and burnout. As a result, we clarified that the participants were chosen from various occupations, and various kinds of index were used as the measurement of emotional labor. In addition, it is revealed that many variables about working conditions and workplace environments, such as autonomy and social support, were used as indepenedent variables except emotional labor, moderator and mediator. On the other hand, the variables such as personality, attitude and thanks or approval from clients or customers were examined hardly. Moreover, we found that the studies for interaction of emotinal labor and other variables were very few. Futhermore, the number of studies in Japan is far few compared with foreign studies. To address these issue, study problems in the future discussed.

キーワード
感情労働, 職務満足感, バーンアウト

要約
感情労働の定義・・・・
「職場には職業上適切な感情やその表出方法、または不適切な感情が定められた『感情規則』というものが存在している。労働者はその規則に従い、客に対し適切な感情を持っているように見える表情やしぐさをする『表層演技』と、そう感じるように自らの感情を誘発する『深層演技』を行なう。つまり、職業上適切な感情状態を保つための感情管理が職務内容の一部になっている。Hochschild(1983)は"Emotinal Labor"を"公的に観察可能な表情と身体的表現を作るために行なう感情の管理"と定義している。そして"感情労働は賃金と引き換えに売られ、したがって交換価値を有すると述べている。」

感情労働の特徴・・・
(1)対面あるいは超えによって人と接することが不可欠な職種に生じる。
(2)他人の中に何らかの感情変化(感謝や安心など)を起こさなければ成らない
(3)雇用者が研修や管理体制を通じて労働者の感情をある程度支配する。

感情労働と職務満足の関係性・・・
これまでのところ一貫した結果は得られていない。
その理由として以下のものを挙げている。

(1)調査対象者
調査対象となる職業について、異なる感情規則を持つ職種を整理・分類しないまま分析しているため。異なる感情規則を持つ職種を混在させてしまうと、ある職種に特徴的な感情労働の性質をとらえることができない危険性がある。

(2)測定変数・尺度について
感情労働を測定する尺度は大きく分けて以下の3つに分類される。前者2つは個人の行動や内的な状態を測定していることから心理学的な測定方法である。後者は個人を職業によって分類することから社会学的な方法である。このような「感情労働」を測定する指標が複数混在している状況が、一貫した結果が得られない要因の一つであると考えられる。
 〔1〕Brotheridge & Lee(1998)の「表層演技・深層演技」の下位尺度を持つ感情労働尺度
 〔2〕Zapf et al.(1999)の「ポジティブ感情の表出の要求・ネガティブ感情の表出と抑制の要求・クライエントへの感情への敏感さの要求・相互作用の統制・感情の不協和」の下位尺度を持つFrankfurt Emotinon Work Scales
 〔3〕職業分類を用いて感情労働を行なう職業であるか否かによって調査参加者をグループ分けする方法
 (要するに、感情労働と目される職業についているか・否かと、職務満足度が関係があるか)
感情労働性を測定する尺度の適切さに関しては、感情労働の捉え方についての議論と、感情労働性を測定する際の指標に関する議論がある。
 〔1〕感情労働の捉え方についての議論
 Grandey(2000b)は、「感情の不協和」はネガティブな状態であるのに対して「表層演技」「深層演技」は本質的意味として肯定的でも否定的でもない。したがって、感情労働は「表層演技」と「深層演技」から構成されると考えた方が適切だと主張している。・・・あくまで「こういう行動を多く取るものは感情労働」という捉え方。
 Zapf et al.(1999)では、action theory が感情労働の構成概念と関連しうる理論的枠組みを提供していると考えている。この視点からFarnkfurt Emotion Work Scaleを作成している。
 〔2〕感情労働性を測定する際の指標に関する議論
 これまでの尺度や分類の多くは、個人の感情労働を「する/しない」や、頻度や程度の測定に着目しており、「感情労働を行なうことがどのくらい大変か」という負担感を測定したものは無い。同じ感情動労働でも個人の負担感は異なると考えられる。このようなことから、個人の負担感を用いることが感情労働の測定指標として有用であると思われる。
⇒ さらには、「個人の負担感の違い」がどこから来るのか、ということについても研究対象として取りあげることもいいのではないか。

(3)その他の変数による感情労働や職務満足感への影響について
 セルフ・モニタリングの自己呈示変容能力、対人不安や二面性、傾聴性が職務満足に影響を与えるとする研究結果があるが、これらは感情労働にも関連することが予想される。
 また、感情労働を行なうことはストレスだが、それを通してクライエントや顧客から感謝や高い評価を与えられ、それによってストレスが減じられ精神的健康を保つ可能性もある。小村(2004)は、感情労働を受容し、顧客に積極的に接近することによって自己承認や職務上の喜びなどが感情労働のもたらす心理的影響をポジティブなものにしていると指摘している。


感想
なんとなく家庭生活も感情労働か・・・。

2010年6月25日金曜日

「仕事の楽しさ」に及ぼす内発的報酬と外発的報酬の効果—優勢職員と民間企業従業員との比較—

タイトル
「仕事の楽しさ」に及ぼす内発的報酬と外発的報酬の効果
—優勢職員と民間企業従業員との比較—

著者
山下 京

掲載
産業・組織心理学研究, Vol.11, No.2, pp.147-157, 1998.

アブストラクト
To examine the possible differences in the structures of work motivations between employees of postal offices and private organizations, a survey measuring the levels of the work motivation in both 10,852 postal workers and 2,396 private organizations employees were analyzed. The data showed that almost all of the postal employees had lower work motivation than their private organization counterparts. The present result, howerver, indicated that a particular department of postal employees were motivated more by jobs providing enjoyment. The further results drawn with covariance-structure analysis revealed that the higher work motivation in departments of postal saving or postal life insurance were inspired by intrinsic factors such as autonomy, but less by extrinsic factors such as money. The present study suggets that the work motivations in the goverment postal workers could be promoted to the compatible level to their private sector counterparts by introducing job enrichment and improving the reward system.

キーワード
郵政職員,仕事の楽しさ,内発的動機づけ要因,外発的動機づけ要因,報酬構造

要約
(1)民間企業の職員では、「仕事の楽しさ」(働きがい・ワークモチベーション)に外発的要因よりも自律感なんどの内発的要因が強く効く事が分かっている。
(2)一方で、公務員においては外発的要因による動機づけ・内発的要因による動機づけはともに低い、また、それらよりも人間関係を重視する、ということも分かっている。
(3)(2)から公務員に於いては有能感や自律感を支援することによって「仕事の楽しさ」を向上させるという方法はあまり機能しないとも考えられる。

そこで、公務員として郵政職員を取り上げ、
(P.1)郵政職員のワークモティベーションの水準や職務の特性などを、民間企業従業員との比較に基づいて整理・把握する。
(P.2)公務員の「仕事の楽しさ」の構造を明らかにし、民間企業従業員の「仕事の楽しさ」の構造が、公務員においてもいえるのかどうかを検討する。
(P.3)なお、さらに郵政職員は郵便・貯金・保険の3つの全く異なる業務が存在する。例えば簡保の営業系外務職員では、営業成績に対する歩合給が付加されている。このことに注目し、個人のパフォーマンスと報酬の随伴性の程度が「公務員」のワークモチベーションに及ぼす影響についても調べる。

データは国際経済労働研究所の全国規模の調査から。

モチベーションの測度として、「仕事の楽しさ」「仕事の生きがい感」「仕事の継続意志」
内発的要因、感情的要因として、「自律感」「有能感」
仕事そのものに関る認知的要因として、「職務状況の自律性の存在の認知」「多様性の存在の認知」「フィードバックの存在の認知」 
 ←ここの二つを分けているところは、結構ポイントな気が個人的にする。
その他の要因(外的要因)として、「給与水準への満足度」「職場の人間関係」

結果・・・
(R1)全体としては、郵政職員は民間企業従業員に比べ「仕事の継続意志」は高いが、一部の職種を除いて「仕事の楽しさ」は低い。つまり、「仕事は楽しくないが、勤めは続けたい」と思っている。
ただ、郵便内・外務は「仕事の楽しさ」が低く、単調感も強い一方で、保険外務や貯金外務など歩合給となっている職種では、「仕事の楽しさ」や「仕事の継続意志」「給与の満足感」が高い。このように、公務員として同じ組織に属していてもその従事する職種によって差がある。
(R.2)共分散構造分析の結果から、これまで民間企業従業員で検討されてきた「仕事の楽しさ」の構造が、郵政職員(公務員)に於いても適用可能であることが支持された。つまり、基本的には公務員に於いても「仕事の楽しさ」に「自律感」「有能感」が民間企業と同じように大きく影響する。一方で、「給与への満足度」と「仕事の楽しさ」については、民間企業と類似した保険外務・貯金外務では、郵便・事務に比べ、関係は薄く、郵便・事務では逆に関係が強い。このことから、同じ公務員でも職務が異なると、「仕事の楽しさ」に影響を与える要因は異なっている。すなわち、「公務員」、「民間企業従業員」ということ「そのもの」は「仕事の楽しさ」の構造に影響を与えているわけではない。

感想
「公務員だから」モチベーションが低いのではない、ということ。ただ、これは「それよりも職種や業務内容、職務設計、遂行状況が影響を与えている」ということを意味しているわけではない。あくまで、私企業の社員と公務員として、モチベーションに影響を与えている要因の「構造」はそれほど大きくは違わない、ということ。

2010年6月22日火曜日

検査課題における不安全行動の効果的な防止

タイトル
検査課題における不安全行動の効果的な防止
Preventing unsafe acts in inspection tasks

著者
田中 孝治, 加藤 隆

掲載
心理学研究, Vol. 81, No.1, pp.35--42, 2010.

アブストラクト
Unsafe acts such as ignoring scheduled inspection can cause serious consequences. This study examines the effects of two reinforcing stimuli and four reinforcement schedules in maintaining sampling behavior in a virtual inspection task. Participants were asked to decide (yes or no) for each "product" wheteher it should be sampled for inspection. In Experiment 1, "yes" responses were reinforced with the message that defectives were found, once for every one to nine (on average five) times (VR), only the first time (FTO), or never (None). The sampling behavior declined gradually in FR and VR and somewhat surprisingly more sharply in FTO than in None. In Experiment 2, the sampling behavior was effectively maintained when the participants were regulary provided with the evaluative feedback on their sampling behavior, although they were kept informed that defectives were not found. These results indicate the importance of utilizing reinforcing stimuli whose administration is independet of the outcome (e.g. defective or not) of the response (e.g., inspection) to be reinforced.

キーワード
unsafe act, reinforcing stimuli, reinforcement schedule, inspection task.

要約
要するに、まず前提として、
(theme)品質管理や安全管理が的確に成されていればいるほど、不良品や不具合の発生頻度は低くなり、不良・不具合発見という強化刺激を受ける機会は少なくなる。一方で、ある程度の割合で不具合・不良発見が行なわれなければ、それは、「検査行動」に対する正の強化刺激が与えられないということになるので、検査行動の実施頻度の低下を招きうる、というジレンマのモデルが考えられている。

(Objective)検査行動をいかに適切に持続させるか、という点での人の不安全行動の防止策を検討する。そのための手掛かりとして、2つの実験を行なった。

(Exp1)「最初の検査行動に対して、一発、強化刺激を与えた後、その後は検査行動に強化刺激を与えない」という強化刺激スケジュールの行動維持に対する効果は、全く強化刺激を与えない場合や、すでにある程度の効果が認められている強化スケジュール(要するに、固定比率で強化刺激をあたえるスケジュールと、変動比率で強化刺激を与えるスケジュール)に比べて、どの程度のものなのか?

→結果として、無強化条件、固定比率条件、変動比率条件に比べ、初回刺激条件では、行動が維持されなかった。原因は、この実験からは明確には分からないが、少なくとも、安易に「練習」的に最初のうちに集中して強化を与える(不良品の発見を体験させる)というのは、何もしないよりも却って結果を悪くする可能性があることが示唆された。

(Exp2)「強化刺激」に位置づけるものとして、「不良品の発見」を用いるのではなく、「検査が一定の割合以上で行なわれているか(行われていれば「合」、行われていなければ「否」)の評価の定期的フィードバック」を用いた場合の、行動維持の効果はどの程度のものなのか?対象実験にあたる条件として、実験1の無強化条件、変動比率条件も実施

→結果として、検査が行なわれているかの合否評価を与えた場合の方が、行動は維持される。

(総合考察)
本実験の実験1の結果から、以下のようなことが起こる可能性があることが示唆されている。
すなわち、初期には不良品が比較的多く発見されたとしても、その後の品質管理によって発生頻度が抑制されるはずである。しかし、実験1の初回のみ条件の結果は、品質管理の工場が皮肉にも品質検査の怠りに結びつき、それが不良品や不具合の検出の妨げになる可能性があることを示唆している。
(要するに、「ラインの立ち上げ時には不良率は高い。そのため、検査行動はその高い不良率でもって強化される。しかしながら、ラインが成熟してくると不良率は当然低下する。すると、それによって検査行動は、何の強化もされない場合よりも一層、消去される」というモデルが具現化される可能性は確かに存在する)

さらに実験2について、「リスク認知が不安全行動を抑制させる」という知見があるが、今回の「評価」というものを与えることは、実験参加者に対して「ある事柄」へのリスクを認知させることになったといえる。それは、すなわち、「自分自身の検査行動の評価(つまり、自分自身の評価)が悪くなること」である(検査をサボタージュして不良を見逃すというリスクではないことがポイント!!)。「検査をサボタージュして不良を見逃す」というリスクよりも「評価」というより分かり易いパーソナルなリスクに変換できたため、容易にリスク認知でき、検査行動が効果的に維持されたと考えられる。

・・・・ここはちょっと疑問。「検査をサボタージュして不良を見逃す」というのも、「自分の評価を下げる」という意味でリスクなのではないかな?ポイントなのは、「たまにしか出てこない、殆ど出てこないかもしれない、0.00・・・%ということが起って、評価が下がる」というリスクと、「それをしないと、確実に評価が下がる」というリスクとの比較だからこそ、認知しやすかったのではないかなぁ・・・。

本研究の結果は、人の検査行動に対する強化の利活用について重要な示唆をしている。すなわち、検査院が自分自身でてきかっくにリスク認知を行なうことには限界があることから、不安全行動による事故の責任を検査員個人に帰するのではなく、検査行動そのものを評価するなどの制度を組織として構築していくことの必要性を示している。検査員のリスク認知を容易にすると言うメリットが期待でき、さらに、リスクが自分自身の評価というパーソナルなものであるため、肯定的・否定的どちらの評価結果も、自分自身の評価を向上させようとする動機によって、検査行動の維持に効果を持つものと期待できる。つまり組織自体が検査の継続そのものを明示的に制度として評価するならば、その評価は検査員に対する効果的な強化刺激となり、検査員の不安全行動による事故を防ぐことが出来るものと期待できる。

感想
結構、最後の総合考察は面白い!!
特に、個人の行動が組織の制度によっても規程されるのだから、上手く制度設計するべきだと述べている点はまさに納得!
さらに、上記の結果の考察としてはなんとも言えないが、少なくとも「パーソナルな評価」というものに対する「リスク」は、人は敏感だということ。
これは、人の特性みたいなものとして考えてもよいだろう。
難しいリスクを言うより、パーソナルなリスクに置き換えてやるほうがよいだろうね。
さらには、そのパーソナルなリスクにしても、そのリスクが顕在化する確率を、制度を上手く設計することで高める(リスクの質は変るとしても)ことが出来る。
パーソナルなリスクと、本来、組織として避けたいリスクが直接に結びつかなくても、間接的に、結果として結びツテいればよい。
その意味で、「やったかどうかを評価する」というのは、「やる」と言う行動は誘発する。そして、「やる」ことによって不良発見率も高まる。間接だが、それでよい。
こういう考え方で、うまく制度設計してやれないか。

2010年6月4日金曜日

食品の安全性と企業逸脱

タイトル
食品の安全性と企業逸脱

著者
宝月 誠

掲載
立命館産業社会論集, Vol.42, No.3, pp.1-23, 2006.

アブストラクト
食べ物の安全性について、本研究は企業逸脱の観点からアプローチする。食べ物の大半が商品として生産・流通している現状からすれば、食品の製造・販売企業の行動に焦点を定めて安全性の問題を考えることは意義がある。第1に安全性を損なう食品企業の逸脱がどのようにして生じるのかを明らかにし、第2に職の安全性を高めるために企業に対する社会的コントロールのあり方を論じ、第3に安全性について考え方を再検討する。明らかにされたことは以下の点である。(1)食品企業の逸脱のタイプは、「安全軽視型」「利益本位型」「逸脱誘因型」「組織弛緩型」に分類される。これらいずれのタイプについても説明するのは、「企業は絶えず、なんらかの問題状況に直面しているが、違法な手段によってその解決が可能であると『状況の定義』をする経営者や担当者がおり、またそれを指示する企業文化が存在するときに、企業逸脱の可能性は増す」という命題である。(2)食品企業の逸脱はこの要因に加えて6つの他の要因のどれかが関連している。現実的な対応としては、コントロールしやすいいずれかの要因を取り除くことが有効である。(3)食品の安全性を高めるには、「日常生活感覚」や「科学的根拠」、「最悪のケースの想起」に基づく安全性の考え方を超えた新たな意味世界が必要となる。

キーワード
食品の安全性、食品企業の逸脱、コントロール

要約
食品の安全性という観点から食品関連企業の「逸脱」について、(1)逸脱発生の原因と対策、(2)そもそもの「安全」というものに対する考え方、の2点について論じている。
ここで「逸脱」とラベル付けしているものは、要するに食品の安全性・信頼性を損なう行為を行なうことを指す。

(1)逸脱発生の原因と対策について・・・・
既往研究のレビューから、「企業逸脱がどのようにして生じるか」について以下の7つの命題を提起する。
【命題1】過度な市場競争の状態であるか、あるいは、集中化・寡占化が進んでいる状態など、市場環境が企業や業界に逸脱機会を与え易いものであるほど、企業逸脱の可能性は増す。

【命題2】技術的に不確実性が高い・信頼性が低いものである場合や、人による操作ミスが起こり易い(不注意・能力不足・過労などによって)場合であればあるほど、企業逸脱の可能性が増す。(→ここでの逸脱は悪意のあるものだけでなく、結果として社会から「逸脱した」とラベル付けされたもの全般を「逸脱」と呼んでいる。)

【命題3】行政や司法機関による効果的なコントロールが機能していない場合や、規制緩和などで規範が緩やかになった場合では、企業は身勝手な行為を行ない易くなり、企業逸脱の可能性が増す。逆に、被害者・大衆・メディアによる批判が強いほど、コンプライアンスのポーズをとることが多くなる。

【命題4】絶えず直面している問題に対して、違法な手段によってその解決が可能であると「状況の定義」をする経営者・担当者がおり、それを支持する企業文化が存在する時に、企業逸脱の可能性は増す。
→より具体的には以下のような場合に逸脱に踏み出す可能性が高い。
<第1>:企業が直面する問題状況の解決を迫るプレッシャーが強く、これらの問題を解決できない経営者・担当者を無能とみなす企業文化の強い場合。
<第2>:企業の社会的責任や信頼性を重視する意識が弱い組織文化の下では逸脱は生じ易い。逆に、これらが強い場合には逸脱をするモチベーションは規制されるし、行なったところで組織内部で支持されない。
<第3>:第2のような文化の違いは、経営者や担当者が、どれだけ広い社会的視点と長期的な時間的パースペクティブを有しているのかという点に如実に表れる。(→これだけ、第2の補足になっている・・・)
<第4>:企業を取り巻く社会そのものが、安全性を重視する集合意識を思っている場合には、企業内部や業界もそれを意識して(「反映して」の方が正しいと思うが・・・)社会的責任を強調する。逆に、社会のあらゆるもの(たとえばスポーツ活動や学校、医療などまでも)が市場化され、競争や利益追求が強調されると、企業も相した社会潮流の影響を受け、社会的責任意識が希薄化する。社会が市場化へと向かうと、個の利害関心に基づく合理的計算は増えても、意味世界の公共性は弱まる。

【命題5】企業犯罪が実行されるのは、組織の管理システムが逸脱をサポートする体制となっているときである。ここで管理システムとは、「逸脱を命じる強制的な権力」、「社員に逸脱行為を引き受けさせる魅力的な報酬」、「愛社精神(組織が生き残るためには違法行為もやむなし、と自ら正当化する)」、「他の企業が違法なことをしている」、というものを指す。

【命題6】組織内部で企業行為を相互にチェックする機能が働きにくい組織ほど、企業逸脱を予防しにくい。ここでは、特に相互チェックは他者への干渉であるので下手をすれば組織の部門間の軋轢を生むことになりかねず、組織内でその実施に消極的になる場合が多く、そうした組織では逸脱を事前に回避できる力は弱まる。

【命題7】組織内部で情報共有が円滑におこなわれておらず、企業行為のミスやリスク情報が共有されることが少ないほど、逸脱は回避されにくくなる。一部の部門や担当者に認知されたリスクも、隠蔽されたり、特定の部門・担当者にとどめられ内部で処理されたり、時には放置されたりする傾向が強いと、小さなミスやリスクの認識が放置されたままになって、ミスやリスクが新たなミスやリスクを惹き起し、最終的に重大な事故を招くこともある。

以上の7つの命題は仮説であるが、実際の食品関連企業の逸脱の説明においては、どの命題がより関連しているか。それを調べた。結果として、逸脱のタイプは、「安全軽視型(命題2+4+7)」「利益本位型(命題1+4+5)」「逸脱誘因型(命題3+4+6)」「組織弛緩型(命題4*3)」に分類された。(特に組織弛緩型とは、企業やそのメンバの利益は重視しても企業活動の社会的責任に対する意識は比較的希薄で、かつコントロールかんきょうもそしきにたいして 庇護的であり、また組織内部で相互に行為をチェックする体制に欠けている場合を指す。要するに、ぬるま湯につかっている組織)
これらから、命題4が全てに共通していることが分かった。

企業逸脱をコントロールするためには、安全軽視型においては、経営者や担当者の社会的・時間的パースペクティブに働きかけて、彼らの意思決定の仕方を変更させる取り組みが重要。利益本位型は逸脱をサポートするような管理システムを改善していくべき。逸脱誘因型は、外部のコントロール環境はメディアの報道や消費者運動によってになわれるが、企業の不祥事を契機にして、企業批判が高まる。こうした動きによって行政や政府もフォーマルなコントロールの改善を示さざるを得なくなる。組織弛緩型は、外部のコントロールが必要。

(2)食べ物の「安全性」についての考え方・・・・
安全に対する考え方は企業や消費者、行政、専門家の間で必ずしも同じではない。
安全に対する考え方は3つ
 ・生活感覚に基づく安全性・・・・素朴に「これは危ないのではないか」と感じるもの。消費者、メディア。

 ・科学的根拠に基づく安全性・・何%の確率での危険性を示すもの。さらには、それを基にリスクを如何に制御するか、受容するか検討するもの。リスクコントロール=「リスク評価」「リスク管理」「リスクコミュニケーション」。業者と政府・行政。ただ、厳密に有害性・危険性が証明されなければ、現状の流れを止めない・対策しない(そのほうが、業者にとっては都合が良い)、という不作為も生み出す。

 ・最悪ケースの想起に基づく安全性・・・最悪のケースが起こる場合を想起し、それに基づいて備え、対応し、災害を回復しようとする戦略。市民グループ。

このようなそれぞれの安全性の捉え方の分裂が、食の安全に対する問題の解決(社会的な意味での解決)の足を鈍らせている。互いに相手の視点を取得し、相互理解を府負ける相互作用に、分裂解消の可能性がある。科学的な知見を取り入れ、イマジネーションを膨らませ、日常生活の状況で現実的に安全性について考えるようになることで、安全性に関する意味世界も新たなレベルになる。そのためには、以下のような事柄の議論が必要である。
【感覚の共有】
・消費者が生活感覚で「不安」と感じる食品に対して、生産者・行政はどれだけその不安を共有し、解消できるか。
・安全性に対して「不確実性が高い」と感じる食品を、業者が開発・販売したり、行政が認可する場合に、どれだけ懸念を解消できるか。
【持続性(サスティナビリティ)への認識】
・現在のことだけでなく、「子孫への影響」も考慮して、安全性を確保する必要性についての共通認識はどれだけ可能か。
・「環境への影響や資源の浪費」といった点についてもどれだけ関係者の間で共通認識を持つことが可能か。



感想
う〜ん。。。根拠がいまいちというか、目からうろこがないというか。やってることに対しても、結果に対しても。
まあ、安全に対する考え方が3つあるという、後半部分はそこそこかなぁ。

2010年3月11日木曜日

労働価値観測定尺度の開発

タイトル
労働価値観測定尺度の開発

著者
江口圭一、戸梶亜紀彦

掲載
産業・組織心理学研究, Vol.23, No.2, pp.145-154, 2010.

アブストラクト
Maladustment of employees to occupational life has become a serious social issue. The purpose of the present study was to develop a work values scale in order to understand their behaviors at occupational life and support them to adust themselves to their occupational life. In the preliminary study, 70 items for the scale were collected from previous literature as candidates for the scale. In the empirical study, we surveryed work values to clarify the factor structure of the work values scales, using extracted. These 7 factors agreed with the theoretical framework that we had assumed. Additionally, Crobach's reliability coefficients of the 7 subscales showed sufficiently high internal consistency. In the future, it will be necessary to conduct an experimental study of validity of the scale.

キーワード
職業生活への適応、労働価値観、尺度開発、信頼性

要約
本研究では、人間の捉え方として、人間は原因に「動かされる」存在ではなく、自ら選択した目的、すなわち価値に向かって主体的に行動する存在として捉える人間観に立つ。
この観点から、労働価値観を「個々人が職業生活の目的として重要であると考える要因」と捉える。

労働価値観を測定することは、個人的要因によって不適応状態に陥ってしまった人たちが、なぜそのような状態になってしまったのかを理解するのに役立つだけでなく、将来的に不適応に陥り易い人たちを早めにチェックすることも可能となるだろう。これらの人々に対して、測定結果を踏まえて、多様なものの見方や考え方があることを示すことによって仕事に対する意識の変革を促すなどの援助方策が考えられる。また、普段それほど意識する機会がない自分の労働価値観について振り返ってみることで、自らの職業生活、ひいては、自らの人生について改めて考える機会を提供することが出来るだろう。

結果・・・
作成した調査票の結果に対して因子分析を実施した結果、「社会的評価」、「自己の成長」、「社会への貢献」、「同僚への貢献」、「経済的報酬」、「達成感」、「所属組織への貢献」の7つの因子が抽出された。

感想
う〜ん。。。どうも違和感がある。納得感がないというか。。。
各個人の労働価値観は、集約すると、これらの7つの変数がそれぞれどういった値となっているか、という形で表されるということだろう。
違和感の根元は、
1.本当にこれだけ??これは、質問紙のプロトタイプがどれだけ網羅的に質問紙を作れているかどうか。網羅性に欠けていると、抜け落ちてる軸があるのかもしれない。それを防ぐために、既往研究を数多く調査して、そこからピックアップしているということか。。。。やれるだけのことはやってるから、ゆるして〜って感じ??
2.寄与率の検討がない。要するに38項目に集約しているわけだが、どの程度回答全体を述べているのだろうか。もし寄与率が小さいのであれば、これら以外の因子の存在も否定できないということになるぞ・・・。

ただ、この7因子自体は、分からなくもない。

2010年3月1日月曜日

自動化システムの限界とその根拠の情報不足による過信

タイトル
自動化システムの限界とその根拠の情報不足による過信

著者
伊藤誠, 稲橋 広将, 田中 健次

掲載
ヒューマンインタフェース学会論文誌, Vol.2, No.5, 2003.

アブストラクト
This paper investigates why and how a human overtrusts an automated systems. Since previous studies on trust have not discussed overtrust, we propses a model of trust in which overtrust is expressed as a special case. In this model, trust is the range within which an automated system is expected to work successfully. It is supposed that there exist two limits in terms of ability of automation: the designed limit within which the automated system is guraranteed to work successfully, and the actual limit within which the automation may work. When the range of expectation exceeds the actual limit, a cognitive experiment is conducted. We focused on effects of information given to users on the limits. Subjects were divided into three groups: group 1 that is given only the desgined limit, group 2 that is given both the designed limit and the actual limit, and group 3 that is given not only the two limits but also the reason for the limits. The results suggest that it it effective to prevent overtrust by informing the limits and the reason.


キーワード
trust, over-reliance, automation, human-machine cooperation, training

要約
システムへの過信が生じる理由やプロセスについての研究。
研究の結果得られた知見としては、以下の通り。
・設計上の限界のみを知らさせる場合、経験をつむにつ入れて期待の範囲が広まる場合がある。このことは、被験者が自動化システムの動作の限界を見極めようとすることによるものと考えられる。
・設計上の限界に加え、機能上の限界も知らさせていると、期待の範囲が当初から機能上の限界に及び易い。機能上の限界を超えなければ問題ないとの判断がなされているものと解釈できる。
・設計上・機能上の限界に加えて、その根拠が知らされている場合、期待の範囲は機能上の限界よりも安全よりの範囲にとどまりやすく、拡大する傾向も小さい。

要するに、機能上の限界と設計上の限界の間には、多少の差が存在する。その差が存在していることが知られてしまうと、最終的には、徐々に設計限界は広げられるか、もしくは「まだ機能的には大丈夫」という考えの基で、設計上の限界は破られ、機能上の限界を元に機器操作を行なう。これを防ぐための方法として、機能上の限界・設計上の限界はどのような根拠で設定されているか、それを破るとどのようなことが起こるかを明確に伝えることで、安全側に操作を留めるようになる。

自発的な安全運転を促すためのヒューマンマシンインタフェースについて

タイトル
自発的な安全運転を促すためのヒューマンマシンインタフェースについて

著者
平岡敏洋

掲載
電子情報通信学会技術報告SSS2009-9, pp.13-16. 2009

アブストラクト
The driving support systems can be separated into two types from the viewpoint of interaction between the system and drivers: 1) a direct driving support to intervene driver's operation directly, and 2) an inderict driving support to provide information to encourage drivers to keep safe driving based on their own judgement. This paper introduce a few examples about the later systems, and discusses points to ponder at the system design.

要約
研究事例を3点紹介。
1点目:リスク量を過大に知覚させるシステム・・・
人の錯視(実際の車両の速度が同じでも、外の「見え」が加速しているときのように見えると、加速感をもつ)によって、加速感を与えつつ、実際の速度を押させさえる方法。無意識的な行動変容を促す。
2点目:直面するリスクの把握を支援するシステム・・・
ステアリングの操舵に関して、表示系を工夫して、リスクの把握を促して、意識的に安全側の行動を促すようなシステム。(詳細は、いまいちよくわからない)
3点目:エコドライブ支援による安全運転行動の誘発
燃費効率をリアルタイムで情報提示することで、「ある目標」を各自が設定し、その数字を達成しようとエコドライブ(自分にとってもスムーズで効率的な運転)を行なうようになる。また、エコドライブは≒で安全運転でもあり、エコドライブ計をつけることで安全運転も達成できる。

最後に、安全運転を促すためのインタフェースとしては、以下のような設計指針が挙げられている。
(1)安全運転に対するインセンティブを高める
(2)情報を連続的かつマルチモーダルに提示する。
(3)S-R適合性を満たすようにインタフェースを設計する
(4)有能感を促進するような娯楽性を盛り込む
(5)錯覚などを利用して知覚リスク量を増加させる
(6)システムの制御や仕組みを直感的に分かり易く設計する


感想
特に3点目が興味深い。
全被験者が燃費計の目標を達成したいと思ったと答えたとのことだった。介入したものとしては燃費計の設置だけであり、「燃費を見せる」
ということだけでエコドライブ行動が促されたとのこと。ここから色々と考えた。
1.娯楽性が維持されている間は行動がキープされる。⇒飽きた場合にはどうか。
2.ポイントは行動が維持されればいいので、娯楽性がキープされている間に「技能」が身について、「飽きたとしても安全運転はキープされる」という状態にあればよい。
3.ただ、「飽きた」場合に、新たな刺激を求めだすと、逆に危険運転の方に戻ってしまうのではないか。
4.となると、「技能が成熟する」までの間は少なくとも「飽き」が来させないような方法が必要となるということか。

2010年2月12日金曜日

目標設定に関わる運用方略の効果性に関する研究の概括

タイトル
目標設定に関わる運用方略の効果性に関する研究の概括
 
著者
野上 真、古川 久敬
 
掲載
産業・組織心理学研究, Vol.23, No.2, pp,129-144, 2010.
 
アブストラクト
We review studies that dealt with goal setting, by focusing not only on the phase of the goal attainment process but also on how goal setting management is carried out. Our findings revealed that goal setting management strategy can be described as falling into three categories i.e., achievement demand (including vision clarification and achievement emphasis), achievement support (including support provision and feedback provision) and promotion of participation. Goal setting management generally had positive effects on goal level, motivation, learning, performance, satisfaction and achievement support and promotion of participation. In contrast only a small number of studies demonstrated the promoting effect of achievement demand. Finally, we posed two research questions for future study and we suggested several implications.
 
要約
<はじめに>
従来研究の問題点:
�目標設定の効果が、「目標設定」の運用にあり方によってどのように影響されるかがあまり検討されてきていない。
�上記と関連し、目標設定の効果を高める上で運用者の関与の仕方の影響についても看過されてきた。
 
本研究の目的:
目標設定の運用方略の特性、および効果に注目しながら、目標設定の効果性に関する従来研究を概観すると共に、今後の研究課題を提示すること。
 
本研究の意義:
1)現実の組織場面における目標設定の効果が生じるメカニズムを明らかにする上で、有益な示唆が得られる。
2)目標設定の効果を促進する上で効果的な、組織における制度運用のあり方について、実践的な示唆が得られる
 
<レビューのフレームワーク>
目標設定の運用は、目標設定段階、目標遂行段階、目標達成度評価段階の3つのフェーズで構成されるものと捉える。
レビューの対象は、目標設定の効果性に関する研究のうち、目標設定の効果性を促進する調整変数として運用方略を扱った理論的実証的研究。
レビューする研究においては、上述の3つのフェーズを通じて支配的な影響力の行使者を運用者と捉える。この捉え方にしたがって、実験研究における研究遂行者も運用者がとする。
 
<目標設定段階における運用方略と効果性の関係>
この段階での運用方略は「方針伝達」「達成強調」「助言提供」「参画促進」の4つ。
 
●方針伝達
方針は理想的な方向性を示すもの。ここまでやれば「完全に達成」という基準を持たない。目標は具体的な「達成されたかどうか」を判定する基準を持つ。
方針伝達の機能は、組織の要求と組織成員の目標のズレを低減させること。運用者によって伝達された方針が、課題遂行者による目標設定の手掛かりとなる。
また、方針が明示されることによって、運用者が何を期待しているかを知り、目標の重要性が高く認知されるようになり、組織成員の仕事に関する意識の方向づけが促進される。
 
●達成強調
一般に、「高い目標を設定するよう勧奨すること」はメンバーの能力に対する信頼を示すものと受け止められ、それによって、成員が自信を高め、組織成員の仕事への意欲や成長の実感が向上する。ただ、達成不可能と成員が感じるような目標設定を勧奨(実体は、強要)されると逆効果となる。以前の業績を元に達成の自信がもてる目標設定を行なうことが必要。また、近年では、目標にはパフォーマンス目標と学習目標の2種類があり、特に、課題達成方略の発見を要求される状況では、学習目標に対置して高いパフォーマンス目標が設定されると、学習に使用されるべき認知的資源が奪われる可能性がある。
 
●助言提供
運用者の支持的態度とは、課題遂行者の目標のレベル向上を介して生産性に「間接的な効果」を持つ。また、運用者が課題遂行者よりも課題達成の道筋についてよく知っている場合、課題の特色や達成方略についての教示を行なうことは、課題遂行者の仕事の進め方についての学習が促進されるだけでなく、課題達成への自信が促進され、課題遂行者のモチベーションや生産性を向上させる。このような課題に関する教示の効果は、課題が具区雑あるいは新規なものである場合特に高くなる。
 
●参画促進
課題が複雑なものや達成の道筋が見えにくいものである場合は、目標設定の効果を高める上で、運用者が目標設定への課題遂行者の参加を促進することの重要性が高くなる。一方で、課題が比較的単純なものである場合、目標設定への課題遂行者の参加認められていなくても、運用者が目標の合理的根拠について説明を行なうことにより、補償的効果が得られる。
 
<目標遂行段階における運用方略と効果性の関係>
この段階での運用方略は「達成強調」「助言提供」「フィードバック提供」「参画促進」の4つ。
 
●達成協調
課題遂行者に目標を意識させ続けるための働き掛けとして必要とされるもの。例えば、「運用者が遂行場面に立ち会っている」という単純な事実が、遂行者に対する運用者の関心の強さを伝達し、圧力として作用すると考えられる。また、単なる達成への圧力を掛けるだけでなく、目標達成への期待を示し、課題達成方略の示唆や、優れた遂行に対する賞賛も行なうこと(以下の「助言提供」を参照)が、ポジティブな効果を持つ。
 
●助言提供
目標遂行段階における運用者の支援や個人的配慮は、遂行者の目標達成への自信や期待感を高め、目標へのコミットメントを促進し、生産性を高める。
 
●フィードバック提供
フィードバックが与えられることにより課題の遂行が促進される。この理由としては、モチベーションの促進と課題達成方略の学習の促進の2つの側面から論じられている。
目標遂行が遅れている課題遂行者がフィードバックを受けると、従来のペースでは目標達成が難しいことを認識し、努力の調整が行なわれるため、課題の遂行が促進される。また、自らの行動の成果を具体的に把握し易い仕事の場合、セルフフィードバックだけでも十分な自己統制が成される可能性があるものと考えられるが、行動の成果が見えにくい仕事の場合、運用者からもたらされるフィードバックは、自己統制が行なわれるために重要な手掛かりとなる。運用者のフィードバックが効果を発揮するには、課題遂行者に受容されることが前提となる。そのための必要条件としては、フィーバック情報に対する信頼性が挙げられる。また、フィードバックが効果を発揮するまでには、ある程度の時間が必要とされる可能性がある。さらに、目標設定の運用者が仕事に関する方針(望ましい行動に関する指針など)を明確にしておくことが、組織成員が目標遂行段階において仕事の成果に関する様々なフィードバックを獲得する上で、促進的効果を持つことを示す結果を得ている。(これは、フィードバック情報に対して自身の評価基準をあたえるものである、あるいは、フィードバック情報そのものに評価情報まで含まれている場合においては、その評価に対する納得感を醸成するものであろう)。
 
●参画促進
課題遂行方法について、課題遂行者の意見を取り入れた方が、MBOにポジティブな効果が生じる。運用者が課題遂行者の意見の出し合いを積極的に「推進する」ことによって、MBOの効果性が促進される。こうした運用者の働き掛けは、単に課題遂行者の意見の出し合いを「容認」することとは異なる。課題遂行者の意見の出し合いを「認め」ても、それを「促す」ための働き掛けが欠如すると、生産性の向上に結びつかない可能性もある。「
 
<目標達成度評価段階における運用方略と効果性の関係>
この段階での運用方略は「助言提供」「フィードバック提供」「参画促進」の3つ。
 
●助言提供
過去のパフォーマンスよりも、改善の可能性がある将来のパフォーマンスに向けさせるような助言が行なわれることが、結果として評価に対する満足感などを高めることが示唆されている。運用者が業績評価に際し、部下の仕事上の弱点を除去する計画作りを助けることが、評価に対する部下の公正感を高めることを示す知見を得た。また、部下の問題解決や、目標設定の相談に乗ることを重視する指導様式が評価プロセスに導入されることにより、フィードバックが個人の成長を助けているという組織成員の認知、また、j評価システム全体への肯定的態度が促進されることを示す結果を得た。また、評価面談のなかで、フィードバックを踏まえた目標設定が行なわれることで、仕事に関する満足感や組織コミットメントが高まることを示す知見を得ている。
 
●フィードバック提供
組織に於いて設定される目標は、業績評価の基準としての意味を持つ。業績評価に於いて、予め設定された目標が活用された度合いが、組織成員の評価に対する満足感や、仕事に関する学習を促進することを示す知見がある。また、目標設定段階において、成果目標を協調しなかった場合よりも、強調した場合の方が、成果が上がらなかった時に運用者が叱責した際の課題遂行者の抵抗感が低くなることを示す結果が得られている。結局、MBOが実施される以上、最終的な達成度評価に於いて目標を基準としたフィードバックの提供がなされることが重要である。
 
●参画促進
業績評価に際し、組織成員の意見表明の機会が確保さえることは、評価の正確さの認知や、評価への満足感、課題の明確化に促進的影響をもたらすことが指摘されている。これは、評価に関する情報のやり取りが活性化することによって、評価の正確さがもたらされること、評価の過程で判断が修正される機会が確保されることで公正感高まること、討論の過程で、将来的に訓練すべきポイントについての分析が促進されること、などによると考えられる。業績評価に関して参画促進がなされることでポジティブな効果がもたらされるが、一方で、仕事における将来的課題の特定に関して参画促進が成されることはポジティブな効果をもたらさない。これは、自分の仕事に関して何が将来的な課題となるか、言い換えれば、現在の自分の仕事における欠陥は何か、について自己批判を行なうことが被評価者にストレスをもたらすことによるかもしれない。
 
 
 

2010年2月9日火曜日

禅的瞑想プログラムを用いた集団トレーニングが精神的健康に及ぼす効果—認知的変容を媒介変数として—

タイトル
禅的瞑想プログラムを用いた集団トレーニングが精神的健康に及ぼす効果—認知的変容を媒介変数として—
 
著者
伊藤 義徳、安藤 治、勝倉 りえこ
 
掲載
心身医学, Vol.49, No.3, pp.233-239
 
アブストラクト
Objective: Recently, the psychotherapies based on mindfulness with the meditation are drawing attentions. The aim of this study is to establish the group training program with Zen meditation, and to experimentally investigate the effect of this program on the mental health of non-clinical samples. Also we have investigated the cognitive factors which are assumed as the active ingredient of the mindfulness training.
Subjects: Twenty non clinical samples who had agreed to the informed consent are selected as participants.
Method: During the 4-week period, participants were instructed to practice the everyday training at home in addition to the group sessions which were held once a week. Participants received the instruction for the meditation training recorded in CD in order to practice whenever they wish.
Results: As the result, it is indicated that the program was effective on mental health as follow; 1) the reduction of depressive tendency, 2) the reduction of thought suppression in the cognitive aspect, 3) the improvement on ability of moderation of catastrophic thinking, 4) the recovering the balance of rational thinking and emotional thinking.
Conclusion: It was suggested that the stress reduction program based on Zen meditation was effective on the mental health of non-clinical participants. The possiblities and limitations of this study are discussed.
 
要約
瞑想プログラムとして、以下のようなプログラムを開発・評価。
1.毎日の練習
        作成した教示用のCDと冊子を用いて、瞑想をする。
        瞑想法は、�息を数える瞑想、�呼吸を意識する瞑想、�ボディスキャン瞑想、�マインドフルネス瞑想、�愛と思いやりの瞑想 (各15分程度)
        瞑想は好きなときに自宅で好きな瞑想方法で好きなだけ行なってよい。
        ただし、最低限のホームワーク(後述)はこなすように指示。
2.集団セッション
        1週間に1回。参加者全員でCDを聞きながら1つの瞑想法を行い、その後参加者同士で感想を話し合う。
        セッションの指導者は極力、介入は避け、参加者からの質問に答える程度とし、参加者の主体性を重視。
 
<実験前の事前説明>
まず最初に以下のような心理教育を行なった。
    瞑想により予想される生理・心理・身体的変化を説明。
    「受け入れることが大事である」ことを説明。
    西洋で注目されていることや、瞑想の考課を検討した研究例の紹介。
 
<指標>
・全般的な精神健康の指標:GHQ-28
・スピリチュアルな精神的態度の指標:PIL
・思考抑制傾向の指標:WBSI
・メタ認知的信念の指標:MCQ
・認知的制御の指標:CC
・理性的思考と感情的思考のバランスの指標:ACS
・状態に関する指標:DAMS(不安抑うつ気分尺度)
 
<ホームワーク>
CDに従い、毎日約20分程度行なう。流れは、�環境を整え、�DAMSに回答、�CDにしたがって瞑想法を行い、�再度DAMSに回答、�感想を記録して終了。
 
<結果>
 
<考察>
長期的には、精神的健康におけるうつ傾向の軽減がみられ、認知的側面においては思考抑制の減少、破局的思考の緩和能力の向上、理性的思考と感情的思考のバランスの回復などといった考課がもたらされることが示された。
 
感想
実際に、これができるといいなぁ〜。。。CRMで使えるかもしれないし、また、自分自身でも普段からやってみたい。
 

パフォーマンスに関する研究の現状と課題

タイトル
パフォーマンスに関する研究の現状と課題
著者
CHAE In-Seok
掲載
産業・組織心理学研究 Vol.23, No.2, pp.117-128, 2010
アブストラクト
Work performance has long been the most important dependent variable in the fields of I/O Psychology and Organizational Behaviors. However, there had been little research accumulation especially about the validity of the construct until the 1980s, which resulted in many undesirable phenomena such as the proliferation of applied research without validity study, the narrow perspective on the consturct, and widening gab between the objective performance scales preferred by researchers and the subjective ones by oranizations. Fortunately, there has been a great development in the theory of performance since the 1990s. This paper reviews its recent theoretical advancements, focusing specifically on the validity study of work performance, its four dimensions, and the future reseach direction.
キーワード
パフォーマンス、妥当性、タスク・パフォーマンス、コンテクスチュアル・パフォーマンス、適応パフォーマンス、反社会的パフォーマンス
要約・感想
<はじめに>
定義:パフォーマンス=組織有効性(Oranizational effectiveness)に対する個人の貢献
(注意:この定義から、あくまで、この論文では「個人のパフォーマンス」を対象としている。ただ、これを参考に、「組織のパフォーマンス」を考えることも可能だろう。)
組織にとってのパフォーマンスの2つの捉え方:
�組織の業績そのものの指標
個人のパフォーマンスの合計
(景気変動などの外的要因を除けば)
�組織の人材マネジメントの有効性の指標
個人のパフォーマンスの合計=組織の業績となるとは限らず、多くの場合、以下の理由によって、それを下回る。
理想的パフォーマンスに対する現状のパフォーマンスの差異が人材マネジメントの有効性の指標。
1)個々人のパフォーマンスがうまく整合していない
2)個々人が状況的・環境的・組織的要因によってベストパフォーマンスが出せていない
論文の構成:以下を展望する。
・パフォーマンスに関する研究の分類
・1980年代までのパフォーマンス研究の問題点
・1990年代以降のパフォーマンス研究の進路
・今後のパフォーマンス研究が取り組むべき課題
パフォーマンスに関する研究の分類>
1.共分散の研究領域
目的:パフォーマンスの規定因の究明
例えば。。。
個人要因・・・個人の能力、性格・態度、など
集団レベルの要因・・・リーダーシップ、集団力学など
組織レベルの要因・・・組織構造、人的資源管理策など
一般に、構成概念は精神活動の産物として「実在」するものでない限り、概念そのものを直接計測は出来ない。このため、研究の便宜上、構成概念を適切に反映していると思われる尺度を工夫し、尺度間の関係を通じて、構成概念間の関係を推測することになる。
この、調べた関係は直接的には尺度(a)と尺度(b)との関係であるが、それを基に、概念(A)と概念(B)との関係を推定・一般化する。すなわち「尺度(a)(b)はそれぞれ、概念A、Bを間違いなく反映している」という仮定が真であるということを前提にしている。この前提がウィークポイントとなる。。
2.妥当性の研究領域
目的:パフォーマンスの規定因を議論する以前の問題として、従属変数たる「パフォーマンス」を測るために用いられる尺度が「適切な」尺度かどうかを検証する研究。(一般的には、構成概念と、それを測るために工夫された尺度との関係を究明しようとする研究領域)
 例えば。。。
個人の販売額や生産量、欠勤率、生産性、上司の主観的評価などが、個人が遂行している仕事の「パフォーマンス」を適切に捉えているかどうか。
基本的には、「この尺度値で示される値を、○○という構成概念と定義する」と決めてしまえば、Fixされるものであるが、ポイントは、その定義がラベルとして、適切なラベルとなっているのか、一般通念で考えてWell-definedといえるかどうか。
⇒2つの検討基準。
� 汚染(contamination)の程度  �不完全さ(deficiency)の程度
「個人のパフォーマンス」測定尺度における汚染度・・・その尺度が個人を越えた状況要因にどの程度左右されるか。状況要因は理想的には0であることが望ましい。
「個人のパフォーマンス」測定尺度における不完全さ・・・その尺度が、パフォーマンスの重要な側面をどの程度反映しているか。個人のパフォーマンスを諮るために工夫された尺度は、それぞれの仕事をこなすために要求されている重要な側面を包括的に反映する尺度で無ければならない。
3.人事考課の研究領域
実際に人事考課でパフォーマンス尺度を適用する際に生じる諸問題に取り組む研究領域。
最大の課題:人事考課の正確さ・公平性。つまり、組織が特定の尺度を用いて人々を評価する際に、定められた期間内に被考課者が実際に成し遂げたパフォーマンスのレベルを、考課者(主に上司)がどのくらい正確に判断できるのか。
より具体的には、以下のような点が課題。。。
�理論的に妥当な尺度があるとして、「良い・悪い」を判断する基準を何処に持っていくのか、
�パフォーマンスを構成する側面が多岐にわたっている場合(複数の尺度の合成によってパフォーマンスが定義された場合)、どのような重み付けをするのか
�尺度値の評価に関する、考課者の諸バイアス(ハロー考課、寛大化傾向、ステレオタイプなど)の除去
�尺度値の評価に対する、被考課者の働き掛け(印象管理など)の除去
�絶対評価VS相対評価、区間尺度VS順位尺度といった評価方法や道具に関する問題
<1980年代までのパフォーマンス研究の問題点>
3つの問題点
�妥当性研究の不在。
独立変数の測定尺度には注意深く検討しながらも、目的とする従属変数(すなわちパフォーマンス)の尺度の妥当性が「便宜的」なものとなっていた。妥当性に掛けた従属変数を用いて独立変数との関係を調べ、仮説どおりの結果が得られたとしても、それは偶然の一致、あるいは、尺度そのものとの関係であって従属変数との関係へと一般化できないものであるにすぎない。逆に、仮説どおりの結果が得られなかったとしても、それは従属変数として用いた尺度が従属変数を正しく反映した尺度でなかったためかもしれない。
�現実と理論のギャップ
人事考課の実務場面で実際に用いられてきた尺度は、直属の上司による主観的評価。一方で、研究者が用いる尺度は量的に測定できる誰の目からも客観的と思われる尺度。つまり、マネジメント現場で実際に用いられてきた尺度とアカデミックな世界で頻繁に使われてきた尺度との間にかなり乖離が存在していた。
�視野の狭さ
仕事には技術的な側面以外に様々な社会・心理的側面が含まれているが故に、個人が組織有効性に貢献する方法が必ずしも職務成果に限られるわけではない。つまり、パフォーマンス=職務成果と捉えるのは視野が狭いのだが、これまでは、この等式に基づいた研究が多かった。
<パフォーマンスの定義>
定義:一定期間にわたり個人が実際に行なっている様々な行動の中で、たまたま組織有効性に貢献する間歇的な行動が組織にもたらす価値の総合
ポイント
�パフォーマンスを成果ではなく行動で捉えている点。成果は状況要因の影響が強いため、結果で個人を評価すると不公平が生じる可能性がある。このため、近年のパフォーマンス研究者たちは結果と行動とを厳密に区分し、行動だけをパフォーマンスとして捉えている。
�組織の価値判断入っている点。個人の行動はすべてがすべてパフォーマンス行動とは言えないし、逆に同じ行動でも、組織有効性に対する貢献の度合いは、組織がどのようなことに価値を置いているかに依存する。あくまで、組織の目標達成や有効性に貢献する行動だけがパフォーマンス行動だけがパフォーマンス行動である。
�パフォーマンス行動は間歇的に起こる。パフォーマンス行動は一定期間中、ずっと連続的に起こるのではなく、実際には、集中が高まる場合と下がる場合とで浮き沈みがある。
�パフォーマンス行動は概念的に異なるいくつかの下位次元で分類できる、多面的な概念である。
<パフォーマンスの4次元>
�タスク・パフォーマンス(職務成果(Job Performance))
より細かくは以下の2つに分けられる。
直接部門・・・インプットをアウトプットに変換し顧客に提供する一連のプロセスに直接係わる職務関連行動。
間接部門・・・インプットをアウトプットに変換するプロセスをサポートする人々の職務関連行動。
�コンテクスチュアル・パフォーマンス
自分自身のタスク・パフォーマンスを低める可能性がある一方で、より働き易い職場作りや雰囲気作りに貢献し、一緒に働く人々のタスク・パフォーマンスを高め、結果的に組織有効性に貢献するような行動。
お互いの調整やコミュニケーション、
協力・協同行動、
既存の役割を超えた行動、組織市民行動など。
�適応パフォーマンス
組織を取り巻く環境や、個人を取り巻く環境の変化に適応していくために個々人が取る行動。
具体的には、
変化がもたらす新しい問題や複雑な課題を創造的に解決する行動
変化のもたらす不確実で予測しなかった事態や状況にうまく対処する行動、
変化によって新たに求められる知識やスキルをすばやく身につける行動、
組織の変化に伴う人間関係の変化にうまく適応する行動、
変化によって生じるストレスにうまく対応する行動       など。
�反社会的パフォーマンス
組織の有効性を阻害する個人の行動。ネガティブな行動。ここから逆説的に、組織や社会のルール・規範を遵守することもパフォーマンスと考えられる。
無礼な行動
組織のルールや規範を意図的に無視し、組織や他人に損害を与える逸脱行動
背任行為
ただ乗り、社会的手抜き
組織から要求されている努力を意図的にサボる行動
組織の合法的な利害に反する個人の意図的な行動として定義される反生産的行動
組織のルールや規則を破ってはいないが社会のルールや規範を破ることによって結果的に組織有効性に大きなダメージを与える非倫理的・反社会的行動
<功績と課題>
�4つの次元の弁別妥当性
コンテクスチュアル・パフォーマンスと適応パフォーマンスの弁別性
コンテクスチュアル・パフォーマンスと反社会的パフォーマンスの弁別性
もし、これら2つの弁別性が認められないのであれば、これら2つはコンテクスチュアル・パフォーマンスに統合されるべきである。
⇒ 因子分析などによって各次元の規定要因の分析
もし、分析の結果、明確に異なる次元として表れる必要があると共に、要因が互いに異なっているか、あるいは、同じ要因が含まれていたとしてもその関係のパターンが明確に異なっていることが明らかでなければならない。
�状況要因の取扱い
パフォーマンスを結果ではなく行動と捉えるようにしたのは、状況要因による尺度の汚染を防ぐためであったが、たとえそうしたとしても、行動すらも結局状況の影響を受ける。気の合う上司の下では、部下は生き生きとしてタスク、コンテクスチュアル、適応パフォーマンス行動を積極的に取るのに対して、そうでない場合には、パフォーマンス行動を取りたくても取れない(心理的に取れない)状況に置かれているかもしれない。Griffin&Hesketh(2003)では、組織のサポート、死後tの複雑性や仕事における自律性などの個人にとっては状況とも言うべき変数に対する個人の認知が、能力や正確といった個人差変数に比べ適応パフォーマンスにより多くの影響を与えていると報告している。
感想
パフォーマンスを「成果」でなく「行動」と捉えるところは新鮮。確かに行動の結果は状況に左右される。そういう意味では、「良い結果が得る」という志向性を前提として「行動」を取ること自体に意味を見出そうとする考えは分からなくはない。ただ、「行動」だけを取り上げると、形だけを取り繕うパターンも出てこよう。そういう意味では、「成果」「行動」「マインド」の3つでもって「個人のパフォーマンス」という概念を構成すべきだと思うのだが・・・。少なくとも、「成果」はあくまで「行動」から期待されるものとして外すとしても、やはりマインドが無ければ行動から期待される成果は組織にとって有用なものではない場合もあるのではないか。・・・とここで、ただ行動を機械的に行なっても結果が伴うような形でシステムを形作ることも可能といえば可能か。ただ、そうしてしまうと、うっかりミスや手抜きも生じ得る。やはり「マインド」が必要なんじゃないかな。

追加:2010/2/10
パ フォーマンスを行動として考えるとして、「パフォーマンスが良い」とは、状況によって結果は異なるとしても、「現状の状況が継続する」、あるいは「予測さ れた状況が来る」という前提であれば、組織の有効性向上に資するような良い結果がであろうことを期待させる行動をとること。

では、その行動とは具体的には何??
どういった行動がそれに該当するの??
その行動がそういう期待を抱かせる根拠は?
結局、ここで価値観が効いてくるということか。
あるいは行動の説明責任が求められる。
すくなくとも「考える」ことが必要である。

2010年2月5日金曜日

不祥事報道において有効なコミュニケーションとは?:信頼の回復における感情的説得と論理的説得の効果

タイトル
不祥事報道において有効なコミュニケーションとは?:信頼の回復における感情的説得と論理的説得の効果
 
著者
杉谷 陽子
 
掲載
産業・組織心理学研究, Vol.23, No.2, pp.91-101, 2010.
 
アブストラクト
The purpose of this study was to investigate how, after the scandal of a company is made public, the company should communicate the facts of the scandal and apologize for it to its consumers in order to restore trust. Previous studies have shown that trust is composed of two dimenstions: the integrity -based dimension and the professional ability-based dimension.  In this study, the author proposed that the former dimension is based on one's feelings, while the latter dimension is found on knowing the fact, such as the objective factual data. The hypotheses of the study were as follows. If a company publishes an apology in a newspaper or has it reported on television, (1) emphasizing the emotinal message, as opposed to stressing on the logical aspect, would be more effective in restoring the integrity-based trust, and (2) the reverse would be true in the case of restoring the professional ability-based trust. The experiment mostly supported these hypotheses. The implications of the results for the theory of attitude and trust were also discussed.
 
キーワード
信頼, 不祥事, 説得, 広報戦略
 
要約
<研究の目的:>
企業が消費者から信頼を得るための具体的な方略をさぐること。具体的には、企業の不祥事が報道された場面を取り上げ、どのようなコミュニケーションを行なえば、消費者からの信頼を維持、回復できるのかを、実証的手法(既往研究を元にして仮説を立て、被験者実験を通じて仮説を実証する)によって明らかにする。
 
<立案した仮説:>
�「誠実さ」に基づく信頼は、感情的にアピールする説得メッセージを読んだときに、感情的にアピールしないメッセージを読んだときよりも高くなるだろう。一方で、メッセージに論拠が示されていたかどうかには影響されないだろう。
�「能力」に基づく信頼は、論拠をアピールする説得メッセージを読んだときに、論拠をアピールしないメッセージを読んだときよりも高くなるだろう。一方で、メッセージが感情的にアピールするものであったかどうかには影響されないだろう。
 
<方法>
実際の不祥事についての新聞報道記事を「実験刺激」として利用。具体的には、記者による事件の経緯の説明と洋菓子販売再開に当たっての安全対策についての説明、ならびに、当事会社側からの謝罪の言葉の原文。この刺激を呼んで、それに対する「反応」として「どの程度、この会社を信頼できるか」を調べる。
 
被験者は大学生160名。感情的アピールの強・弱×論理性の高・低 の4条件で、大学生はランダムでそれぞれの条件に割り振られた。
 
条件操作方法について、仮説�に関しては、感情的なアピール度のコントロールとして、感情的なアピールが強い条件については、「謝罪文は一般社員(被験者に立場が近い)が道行く消費者に発したもの」という教示をし、弱い条件については「謝罪文はオフィシャルな記者会見で、社長が発したもの」という教示を与える、という形とした。これは、「文章に感情が込められていると受け取るかどうか」は、「発信者と自分との間の立場的な距離」と関係しており、立場が近いと感じられる他者が発したものだと、人はそのメッセージにこめられた感情(謝罪の気持ち)をより現実感を持って捉えることが出来るというという仮説を前提としている。
 
仮説�の条件操作については、当事会社が実施した安全対策について、「論理性が高い」条件では、第三者機関から監査を受け、さらに、AIBと呼ばれる衛生基準を導入したことを明記した説明を記事に書き込み、「論理性が低い」条件では、単に「(経営陣が)安全であると判断した」としか書かなかった。
 
質問紙は、既往研究で出されている信頼性尺度を用いた。具体的には、「あなたは、今のホームページを見て、F社に対してどんな印象を持ちましたか」という質問に対して、
 
  1. 「好感が持てる」、
  2. 「技術力がある」、
  3. 「無責任だ(逆転項目)」、
  4. 「失敗を克服できる」、
  5. 「良心的だ」、
  6. 「情報力がある」、
  7. 「事件について反省している」、
  8. 「専門知識がある」、
  9. 「消費者の利益のために努力している」、
  10. 「製品の質が良い」、
  11. 「正直な」、
  12. 「消費者の視点に立っている」、
  13. 「同じような事件を繰り返す」
のそれぞれに回答する(段階数は不明)。
 
<結果>
因子分析の結果、「同じような事件を繰り返す」のみ除外され、その他の項目で、1,5,3,11,12,7,9が第一因子で、「誠実さ」に基づく信頼とみなした(α=.84)。一方、2,8,10,6,4が第2因子で、「能力」に基づく信頼とみなした(α=.71)
実験操作については分析の結果、成功していたとみなした。(詳細は略)
仮説の実証については、以下の通り。
  • 誠実さに基づく信頼の尺度に於いては、感情性による有意な主効果が見られ、感情性の高いメッセージの方が感情性の低いメッセージよりも「誠実さ」に基づく信頼の評価が高かった(p<.01)。交互作用、論理性と「誠実さに基づく信頼」の主効果は、共に無かった。⇒仮説�は支持された。
  • 能力に基づく信頼の尺度に於いては、論理性の高低による主効果が有意傾向であった。論理性の高いメッセージの場合、低いメッセージよりも能力に基づく信頼性の認知が高かった。交互作用、感情性と「能力に基づく信頼」の主効果は無かった。⇒仮説�は限定的では在るが、支持された。
 
 

2010年1月29日金曜日

私と経営学02 コンティンジェンシー理論−組織の環境適合論は、もはや死んだ理論なのか

タイトル
私と経営学02 コンティンジェンシー理論−組織の環境適合論は、もはや死んだ理論なのか
 
著者
野中 郁次郎
 
abstract
野中氏は、博士論文「組織と市場」中で組織の情報処理モデルを展開したが、コンティンジェンシー理論は、組織の環境適合論である。ハーバード・A・サイモンの情報処理モデルとともに、知識創造理論に影響を与えたコンティンジェンシー理論について、今号では紐解いている。
 
引用元
三菱総研倶楽部 200802, pp.20-23, 2008.
 
Keyword
なし
 
独自のKeyword
コンティンジェンシー理論
 
要約・感想
コンティンジェンシー理論を調べようとググってみて見つけた資料。
 
ようするに、ベストなパフォーマンスを発揮できる組織の構造はあくまで、環境との相互作用の中で決まるものである。組織過程は個人、集団、組織、環境をダイナミックに結びつける連続的な行動である。
 
ふと思ったのだけど、パフォーマンスが良い・悪いは別にして、組織のパフォーマンスの状態を定義するのが、コンティンジェンシーモデルなのではないか?つまり、悪い場合でも、アウトプットが悪いものとなるように各要素が均衡状態・バランスが取れた状態となっているということ。「均衡」というものを考えると、どのような要素に対しても変化を起こすだけで全体が変る一方で、小さな変化にむけた力は「均衡」を保とうとする力が逆方向にかかってくるということか。均衡を保とうと元に戻ろうとする力に打ち勝てるだけの「変化を生む力」が必要だろう。
 
また、「ある均衡状態から別の均衡状態への遷移過程」はどのようなものなのだろうか?「変革を起こす力」というものを研究テーマとするなら、そこがポイントになる気がする。
 
コンティンジェンシー理論は、もう枯れた理論と先生は見ているようだ。

2010年1月25日月曜日

安全のための小さな試みを促進する職場活動—原子力発電所の安全文化醸成に向けて—

タイトル
安全のための小さな試みを促進する職場活動—原子力発電所の安全文化醸成に向けて—
 
著者
福井 宏和, 杉万 俊夫  

abstract
Activities that could possibly grow into learning activities for developing safety culture were explored by intensive fieldwork in a nuclear power plant depending on Engestrom's activity theory. As a first step to achieve this goal,  worker's small attempts that might contribute to nurturing a safety culture were investigated. Eight kinds of activity were observed and interpreted as having the possibility to facilitate small recognition and small practice, i.e., activity including (1) workgroup as community, (2)other workgroups and other departments as community, (3) meeting drawing remarks as mediating artifacts, (4) study session and Off-the-Job-Training as mediating artifact, (5) award as mediating artifact, (6) extended leave as mediating artifact, (7) check sheet as mediating artifact, and (8) skill-transfer system as mediating artifact. 

引用元
 INSS Journal Vol.14 pp.2-10, 2007. 
 
keyword
safety culture, activity theory, learning activity, small attempts 

独自のkeyword
小さな気付きを促す要因, 小さな試みを促す要因, 組織のパフォーマンスを向上させる要因
     

要約・感想
組織内での従来の活動は、まさに従来から繰り返されてきて、今なお繰り返されている活動である。それは、その活動に内在している欠陥や支障は「日々繰り返される」ことが可能な程度に克服されており、致命的な問題もなく、つつがなく繰り返されている。従来からの活動の中でも、「ふとした気付き」はあるものだ。それは、その活動において、日々繰り返しの中で「ふとした気付き」でしか顕在化しない程度の大きさのものである。その気付きは普通は、すぐに忘れられ、気付きなど無かったかのように従来からの活動が続いていく。その「ふとした気付き」を蒸発させないためには、誰かに語る必要がある。また、語った後に、「じゃあ、こうしてみよう」という「小さな試み」を起こさなければ、その気付きは、やはり蒸発してしまい、従来からの活動⇒「ほんの少し新しい」活動という変化につながることは無い。
 
「小さな気付きの語り」と「小さな試み」を促進・阻害する要因、組織的活動は何か?参与観察から見て取った。
<促進要因>
(1)コミュニティとしての作業グループ・・・作業経験に基づいたリーダーの選出、ベテランによる若手のインフォーマルな教育、相互サポート、作業Grとしての業務遂行を目的としたグループマネジメント
(2)コミュニティを形成している他の作業グループと他の関連部署、・・・専門的知識・技能の共有、数個のGrで構成される部署全体の統括役のリーダーシップ、他Gr.にもパイプを築いているベテランの動き、+組織の風土・文化
(3)道具としての発言促進的な会合、
(4)道具としての勉強会・研修、
(5)道具としての表彰制度、・・・かなり間接的、これがコミットメントを高め、「小さな気付き」を引き出す。
(6)道具としての長期休暇、・・・他のメンバとのワークシェアリング
(7)道具としての各種チェックシート、・・・チェックシートの不備を見つけて改訂していく活動が伴っている
(8)道具としての技術伝承システム・・・内発的なデータベース
<阻害要因>
効率化圧力の増大による、時間の切り詰め
 
 

Positiveな活動(組織市民行動)を促進する要因 、
 Positiveな活動(組織市民行動)を阻害する要因
Negativeな活動(不安全行動)を促進する要因、Negativeな活動(不安全行動)を抑制する要因
 
とりあえず、要因をこの四つの次元で考えるか。。。
       
   |   P  |    N
 —┼——┼———
 促| +  |     -
 —┼——┼———
 阻| −  |  + 
この4次元で、具体的な要因を書き込んでいく。PとNのところには、具体的行動を書き込んでいく。
 

2010年1月19日火曜日

組織市民行動を規定する集団的アイデンティティ要因と動機要因の探索—職場集団と大学生集団との比較から—

タイトル
組織市民行動を規定する集団的アイデンティティ要因と動機要因の探索—職場集団と大学生集団との比較から—
 
 著者
潮村 公弘, 松岡 瑞希 
 
abstract
We investigated the relationship among organizational citizenship behavior, motivation sources, and collective identity through the comparisons between workplace groups and (hobby-oriented) university student groups. We mainly focused on exploring the functions of four kinds of motivations assessed by the Motivation Sources Inventory; 1) Intrinsic Process motivation, 2) Internal Self-concept-based motivation, 3) External Self-concept based motivation, 4) Instrumental motivaion, on organizational citizenship behavior. The results were the following: In both workplace group and university student groups, there was a negative connection of Intrinsic Process motivation and a positive connection of Internal Self-concept-based motivation with organizational citizenship behavior. Only in workplace groups, there was a marginally significant positive connection of Instrumental motivation with organizational citizenship behavior. As for functions of collective identity, in workplace groups, no connections were found amoung collective identity, the gour elements of motivation sources, and organizational citizenship behavior.On the contrary, in university student groups there were some understandable connections. This differences based on the groups were interpreted by the role of free will toattend each kind of group. In the discussion we focus on the findinds that the kind of motivation to encourage/inhibit organizational citizenship behavior depends on the nature and situations of organizations. 
 
引用元
信州大学 人文科学論文集 人間情報学科編, Vol. 39, pp.27-472005 
 
keyword
 Organizational Citizenship Behavior, Motivation Sources Inventory, Collective Identity. 
 
独自のkeyword
動機傾向, 集団的アイデンティティ     
 
要約・感想
 いい分析をしているのに、考察が非常にもったいないな・・・。論文を要約すると、
<B><U>方向性:</B></U>
「組織市民行動を規定する人の動機傾向を探る」 
 
<B><U>目的:</B></U>
組織市民行動を規定する動機傾向や組織特性の影響を調べること
 
<B><U>方法:</B></U>
「組織市民行動、モチベーション(マクレラントの動機傾向)、集団的アイデンティティを用いたパス解析」という分析を、職場と大学サークルの両方で行い、それらを比較検討する。
 
<B><U>結果:</B></U>
モチベーションと組織市民行動について、職場・大学生共に、「内因的な過程(情緒的「楽しみ」を求める傾向)」は組織市民行動と負の関係、「内的自己概念(自分が思い描く「状況のあるべき姿」の実現を求める傾向)は組織市民行動と正の関係性を持っている。また、職場においてのみ、「道具性(具体的明示的報酬を求める傾向)」は組織市民行動と正の関係性を持っているか可能性がある(有意傾向)。
一方で、集団的アイデンティティとして測った「内集団の重要性(自分が所属している集団の自分にとっての重要性)」「内集団の評価(自分が所属している集団に対する自分自身による評価)」は、大学サークルではモチベーションとの関連や、組織市民行動との関連があったが、職場では両者との関係は無かった。
 
<B><U>考察:</B></U>
・組織市民行動は、個人の内部の自己評価を高める行動である。
・組織市民行動は他者に認めてもらいたいという動機によっては促進されない。
・特に両方の組織に対する負の関係への考察から、人の一般的傾向として、内因的な過程動機に基づく活動や課題に恵まれていない人たちが、組織市民行動を積極的に行なうことを通して、地震の役割や、自身の活動や課題の価値を見出しているというダイナミクスが推量される。
・職場という収入を得るために少なくとも幾分かは強制的に所属しなければならない組織では、内集団に対する評価は、組織への自発的な貢献行動や個人の動機に影響しないと考えられる。すなわち、職場における組織市民行動は、内集団への評価や重要性からは独立した、個人の性質や職場の風土によって、動機づけや自発的な行動が決定されていると考えられる。
 
 
で、感想としては、、、
〔�〕
ここで出している動機は、「動機傾向」であって、その人の個人特性として、そういうものを求める傾向の強さ。なので、内因的過程との負の関係については、「活動や課題に『恵まれていない』」と捉えるのではなく、「そういうものを求めていない」ということを言っているはず。ということは、今回の結果から言えることとしては、以下のことであろう。
 
�「自分自身が『楽しい』と思える行動をしたい」あるいは「自分自身とる行動は『楽しい』行動であってほしい」という思いが弱い人、
また、
�「自分自身が思い描く『あるべき姿』を達成したい、それにつながる行動をとりたい」という思いが強い人
は、
(A)組織市民行動を取る傾向が強い。
 
�'「自分自身が『楽しい』と思える行動をしたい」あるいは「自分自身とる行動は『楽しい』行動であってほしい」という思いが強い人、
または、
�'「自分自身が思い描く『あるべき姿』を達成したい、それにつながる行動をとりたい」という思いが弱い人
は、
(B)組織市民行動を取らない傾向が強い。
 
〔�〕
細かい話だが、そもそも「組織特性を調べる」として集団的アイデンティティを組織特性を反映したものとして持ってきているのは良いとしても、測度として「内集団の重要性」と「内集団の評価」を因子として持ってくるのは良いのか?「重要性」と「評価」の違いが分からない。直感的には、互いに独立なものではないように思う。使う両者の違いをもう少し細かく説明してほしい。
 
また、同じく細かい話だが、考察の中の「個人の性質や『職場の風土』によって」という行、今回測定しているのは全て動機傾向であって個人特性だろう。組織特性として集団的アイデンティティを引っ張ってきてて、それと組織市民行動やモチベーションが関連があるというのなら、まだ何か言い様があるかもしれないが、今回の結果からはそれは関連がない。となると、ここで「職場の風土」が行動を引き出している考えるためのデータが全く出されていないように思う。大学と組織との違いから一般的に言えることとしたら、組織への参加における「自由意志」によって、「内集団の評価」・「内集団の重要性」と、モチベーションや組織市民行動との関係が変ってくるということだけだろう。