2010年2月12日金曜日

目標設定に関わる運用方略の効果性に関する研究の概括

タイトル
目標設定に関わる運用方略の効果性に関する研究の概括
 
著者
野上 真、古川 久敬
 
掲載
産業・組織心理学研究, Vol.23, No.2, pp,129-144, 2010.
 
アブストラクト
We review studies that dealt with goal setting, by focusing not only on the phase of the goal attainment process but also on how goal setting management is carried out. Our findings revealed that goal setting management strategy can be described as falling into three categories i.e., achievement demand (including vision clarification and achievement emphasis), achievement support (including support provision and feedback provision) and promotion of participation. Goal setting management generally had positive effects on goal level, motivation, learning, performance, satisfaction and achievement support and promotion of participation. In contrast only a small number of studies demonstrated the promoting effect of achievement demand. Finally, we posed two research questions for future study and we suggested several implications.
 
要約
<はじめに>
従来研究の問題点:
�目標設定の効果が、「目標設定」の運用にあり方によってどのように影響されるかがあまり検討されてきていない。
�上記と関連し、目標設定の効果を高める上で運用者の関与の仕方の影響についても看過されてきた。
 
本研究の目的:
目標設定の運用方略の特性、および効果に注目しながら、目標設定の効果性に関する従来研究を概観すると共に、今後の研究課題を提示すること。
 
本研究の意義:
1)現実の組織場面における目標設定の効果が生じるメカニズムを明らかにする上で、有益な示唆が得られる。
2)目標設定の効果を促進する上で効果的な、組織における制度運用のあり方について、実践的な示唆が得られる
 
<レビューのフレームワーク>
目標設定の運用は、目標設定段階、目標遂行段階、目標達成度評価段階の3つのフェーズで構成されるものと捉える。
レビューの対象は、目標設定の効果性に関する研究のうち、目標設定の効果性を促進する調整変数として運用方略を扱った理論的実証的研究。
レビューする研究においては、上述の3つのフェーズを通じて支配的な影響力の行使者を運用者と捉える。この捉え方にしたがって、実験研究における研究遂行者も運用者がとする。
 
<目標設定段階における運用方略と効果性の関係>
この段階での運用方略は「方針伝達」「達成強調」「助言提供」「参画促進」の4つ。
 
●方針伝達
方針は理想的な方向性を示すもの。ここまでやれば「完全に達成」という基準を持たない。目標は具体的な「達成されたかどうか」を判定する基準を持つ。
方針伝達の機能は、組織の要求と組織成員の目標のズレを低減させること。運用者によって伝達された方針が、課題遂行者による目標設定の手掛かりとなる。
また、方針が明示されることによって、運用者が何を期待しているかを知り、目標の重要性が高く認知されるようになり、組織成員の仕事に関する意識の方向づけが促進される。
 
●達成強調
一般に、「高い目標を設定するよう勧奨すること」はメンバーの能力に対する信頼を示すものと受け止められ、それによって、成員が自信を高め、組織成員の仕事への意欲や成長の実感が向上する。ただ、達成不可能と成員が感じるような目標設定を勧奨(実体は、強要)されると逆効果となる。以前の業績を元に達成の自信がもてる目標設定を行なうことが必要。また、近年では、目標にはパフォーマンス目標と学習目標の2種類があり、特に、課題達成方略の発見を要求される状況では、学習目標に対置して高いパフォーマンス目標が設定されると、学習に使用されるべき認知的資源が奪われる可能性がある。
 
●助言提供
運用者の支持的態度とは、課題遂行者の目標のレベル向上を介して生産性に「間接的な効果」を持つ。また、運用者が課題遂行者よりも課題達成の道筋についてよく知っている場合、課題の特色や達成方略についての教示を行なうことは、課題遂行者の仕事の進め方についての学習が促進されるだけでなく、課題達成への自信が促進され、課題遂行者のモチベーションや生産性を向上させる。このような課題に関する教示の効果は、課題が具区雑あるいは新規なものである場合特に高くなる。
 
●参画促進
課題が複雑なものや達成の道筋が見えにくいものである場合は、目標設定の効果を高める上で、運用者が目標設定への課題遂行者の参加を促進することの重要性が高くなる。一方で、課題が比較的単純なものである場合、目標設定への課題遂行者の参加認められていなくても、運用者が目標の合理的根拠について説明を行なうことにより、補償的効果が得られる。
 
<目標遂行段階における運用方略と効果性の関係>
この段階での運用方略は「達成強調」「助言提供」「フィードバック提供」「参画促進」の4つ。
 
●達成協調
課題遂行者に目標を意識させ続けるための働き掛けとして必要とされるもの。例えば、「運用者が遂行場面に立ち会っている」という単純な事実が、遂行者に対する運用者の関心の強さを伝達し、圧力として作用すると考えられる。また、単なる達成への圧力を掛けるだけでなく、目標達成への期待を示し、課題達成方略の示唆や、優れた遂行に対する賞賛も行なうこと(以下の「助言提供」を参照)が、ポジティブな効果を持つ。
 
●助言提供
目標遂行段階における運用者の支援や個人的配慮は、遂行者の目標達成への自信や期待感を高め、目標へのコミットメントを促進し、生産性を高める。
 
●フィードバック提供
フィードバックが与えられることにより課題の遂行が促進される。この理由としては、モチベーションの促進と課題達成方略の学習の促進の2つの側面から論じられている。
目標遂行が遅れている課題遂行者がフィードバックを受けると、従来のペースでは目標達成が難しいことを認識し、努力の調整が行なわれるため、課題の遂行が促進される。また、自らの行動の成果を具体的に把握し易い仕事の場合、セルフフィードバックだけでも十分な自己統制が成される可能性があるものと考えられるが、行動の成果が見えにくい仕事の場合、運用者からもたらされるフィードバックは、自己統制が行なわれるために重要な手掛かりとなる。運用者のフィードバックが効果を発揮するには、課題遂行者に受容されることが前提となる。そのための必要条件としては、フィーバック情報に対する信頼性が挙げられる。また、フィードバックが効果を発揮するまでには、ある程度の時間が必要とされる可能性がある。さらに、目標設定の運用者が仕事に関する方針(望ましい行動に関する指針など)を明確にしておくことが、組織成員が目標遂行段階において仕事の成果に関する様々なフィードバックを獲得する上で、促進的効果を持つことを示す結果を得ている。(これは、フィードバック情報に対して自身の評価基準をあたえるものである、あるいは、フィードバック情報そのものに評価情報まで含まれている場合においては、その評価に対する納得感を醸成するものであろう)。
 
●参画促進
課題遂行方法について、課題遂行者の意見を取り入れた方が、MBOにポジティブな効果が生じる。運用者が課題遂行者の意見の出し合いを積極的に「推進する」ことによって、MBOの効果性が促進される。こうした運用者の働き掛けは、単に課題遂行者の意見の出し合いを「容認」することとは異なる。課題遂行者の意見の出し合いを「認め」ても、それを「促す」ための働き掛けが欠如すると、生産性の向上に結びつかない可能性もある。「
 
<目標達成度評価段階における運用方略と効果性の関係>
この段階での運用方略は「助言提供」「フィードバック提供」「参画促進」の3つ。
 
●助言提供
過去のパフォーマンスよりも、改善の可能性がある将来のパフォーマンスに向けさせるような助言が行なわれることが、結果として評価に対する満足感などを高めることが示唆されている。運用者が業績評価に際し、部下の仕事上の弱点を除去する計画作りを助けることが、評価に対する部下の公正感を高めることを示す知見を得た。また、部下の問題解決や、目標設定の相談に乗ることを重視する指導様式が評価プロセスに導入されることにより、フィードバックが個人の成長を助けているという組織成員の認知、また、j評価システム全体への肯定的態度が促進されることを示す結果を得た。また、評価面談のなかで、フィードバックを踏まえた目標設定が行なわれることで、仕事に関する満足感や組織コミットメントが高まることを示す知見を得ている。
 
●フィードバック提供
組織に於いて設定される目標は、業績評価の基準としての意味を持つ。業績評価に於いて、予め設定された目標が活用された度合いが、組織成員の評価に対する満足感や、仕事に関する学習を促進することを示す知見がある。また、目標設定段階において、成果目標を協調しなかった場合よりも、強調した場合の方が、成果が上がらなかった時に運用者が叱責した際の課題遂行者の抵抗感が低くなることを示す結果が得られている。結局、MBOが実施される以上、最終的な達成度評価に於いて目標を基準としたフィードバックの提供がなされることが重要である。
 
●参画促進
業績評価に際し、組織成員の意見表明の機会が確保さえることは、評価の正確さの認知や、評価への満足感、課題の明確化に促進的影響をもたらすことが指摘されている。これは、評価に関する情報のやり取りが活性化することによって、評価の正確さがもたらされること、評価の過程で判断が修正される機会が確保されることで公正感高まること、討論の過程で、将来的に訓練すべきポイントについての分析が促進されること、などによると考えられる。業績評価に関して参画促進がなされることでポジティブな効果がもたらされるが、一方で、仕事における将来的課題の特定に関して参画促進が成されることはポジティブな効果をもたらさない。これは、自分の仕事に関して何が将来的な課題となるか、言い換えれば、現在の自分の仕事における欠陥は何か、について自己批判を行なうことが被評価者にストレスをもたらすことによるかもしれない。
 
 
 

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