2010年2月9日火曜日

パフォーマンスに関する研究の現状と課題

タイトル
パフォーマンスに関する研究の現状と課題
著者
CHAE In-Seok
掲載
産業・組織心理学研究 Vol.23, No.2, pp.117-128, 2010
アブストラクト
Work performance has long been the most important dependent variable in the fields of I/O Psychology and Organizational Behaviors. However, there had been little research accumulation especially about the validity of the construct until the 1980s, which resulted in many undesirable phenomena such as the proliferation of applied research without validity study, the narrow perspective on the consturct, and widening gab between the objective performance scales preferred by researchers and the subjective ones by oranizations. Fortunately, there has been a great development in the theory of performance since the 1990s. This paper reviews its recent theoretical advancements, focusing specifically on the validity study of work performance, its four dimensions, and the future reseach direction.
キーワード
パフォーマンス、妥当性、タスク・パフォーマンス、コンテクスチュアル・パフォーマンス、適応パフォーマンス、反社会的パフォーマンス
要約・感想
<はじめに>
定義:パフォーマンス=組織有効性(Oranizational effectiveness)に対する個人の貢献
(注意:この定義から、あくまで、この論文では「個人のパフォーマンス」を対象としている。ただ、これを参考に、「組織のパフォーマンス」を考えることも可能だろう。)
組織にとってのパフォーマンスの2つの捉え方:
�組織の業績そのものの指標
個人のパフォーマンスの合計
(景気変動などの外的要因を除けば)
�組織の人材マネジメントの有効性の指標
個人のパフォーマンスの合計=組織の業績となるとは限らず、多くの場合、以下の理由によって、それを下回る。
理想的パフォーマンスに対する現状のパフォーマンスの差異が人材マネジメントの有効性の指標。
1)個々人のパフォーマンスがうまく整合していない
2)個々人が状況的・環境的・組織的要因によってベストパフォーマンスが出せていない
論文の構成:以下を展望する。
・パフォーマンスに関する研究の分類
・1980年代までのパフォーマンス研究の問題点
・1990年代以降のパフォーマンス研究の進路
・今後のパフォーマンス研究が取り組むべき課題
パフォーマンスに関する研究の分類>
1.共分散の研究領域
目的:パフォーマンスの規定因の究明
例えば。。。
個人要因・・・個人の能力、性格・態度、など
集団レベルの要因・・・リーダーシップ、集団力学など
組織レベルの要因・・・組織構造、人的資源管理策など
一般に、構成概念は精神活動の産物として「実在」するものでない限り、概念そのものを直接計測は出来ない。このため、研究の便宜上、構成概念を適切に反映していると思われる尺度を工夫し、尺度間の関係を通じて、構成概念間の関係を推測することになる。
この、調べた関係は直接的には尺度(a)と尺度(b)との関係であるが、それを基に、概念(A)と概念(B)との関係を推定・一般化する。すなわち「尺度(a)(b)はそれぞれ、概念A、Bを間違いなく反映している」という仮定が真であるということを前提にしている。この前提がウィークポイントとなる。。
2.妥当性の研究領域
目的:パフォーマンスの規定因を議論する以前の問題として、従属変数たる「パフォーマンス」を測るために用いられる尺度が「適切な」尺度かどうかを検証する研究。(一般的には、構成概念と、それを測るために工夫された尺度との関係を究明しようとする研究領域)
 例えば。。。
個人の販売額や生産量、欠勤率、生産性、上司の主観的評価などが、個人が遂行している仕事の「パフォーマンス」を適切に捉えているかどうか。
基本的には、「この尺度値で示される値を、○○という構成概念と定義する」と決めてしまえば、Fixされるものであるが、ポイントは、その定義がラベルとして、適切なラベルとなっているのか、一般通念で考えてWell-definedといえるかどうか。
⇒2つの検討基準。
� 汚染(contamination)の程度  �不完全さ(deficiency)の程度
「個人のパフォーマンス」測定尺度における汚染度・・・その尺度が個人を越えた状況要因にどの程度左右されるか。状況要因は理想的には0であることが望ましい。
「個人のパフォーマンス」測定尺度における不完全さ・・・その尺度が、パフォーマンスの重要な側面をどの程度反映しているか。個人のパフォーマンスを諮るために工夫された尺度は、それぞれの仕事をこなすために要求されている重要な側面を包括的に反映する尺度で無ければならない。
3.人事考課の研究領域
実際に人事考課でパフォーマンス尺度を適用する際に生じる諸問題に取り組む研究領域。
最大の課題:人事考課の正確さ・公平性。つまり、組織が特定の尺度を用いて人々を評価する際に、定められた期間内に被考課者が実際に成し遂げたパフォーマンスのレベルを、考課者(主に上司)がどのくらい正確に判断できるのか。
より具体的には、以下のような点が課題。。。
�理論的に妥当な尺度があるとして、「良い・悪い」を判断する基準を何処に持っていくのか、
�パフォーマンスを構成する側面が多岐にわたっている場合(複数の尺度の合成によってパフォーマンスが定義された場合)、どのような重み付けをするのか
�尺度値の評価に関する、考課者の諸バイアス(ハロー考課、寛大化傾向、ステレオタイプなど)の除去
�尺度値の評価に対する、被考課者の働き掛け(印象管理など)の除去
�絶対評価VS相対評価、区間尺度VS順位尺度といった評価方法や道具に関する問題
<1980年代までのパフォーマンス研究の問題点>
3つの問題点
�妥当性研究の不在。
独立変数の測定尺度には注意深く検討しながらも、目的とする従属変数(すなわちパフォーマンス)の尺度の妥当性が「便宜的」なものとなっていた。妥当性に掛けた従属変数を用いて独立変数との関係を調べ、仮説どおりの結果が得られたとしても、それは偶然の一致、あるいは、尺度そのものとの関係であって従属変数との関係へと一般化できないものであるにすぎない。逆に、仮説どおりの結果が得られなかったとしても、それは従属変数として用いた尺度が従属変数を正しく反映した尺度でなかったためかもしれない。
�現実と理論のギャップ
人事考課の実務場面で実際に用いられてきた尺度は、直属の上司による主観的評価。一方で、研究者が用いる尺度は量的に測定できる誰の目からも客観的と思われる尺度。つまり、マネジメント現場で実際に用いられてきた尺度とアカデミックな世界で頻繁に使われてきた尺度との間にかなり乖離が存在していた。
�視野の狭さ
仕事には技術的な側面以外に様々な社会・心理的側面が含まれているが故に、個人が組織有効性に貢献する方法が必ずしも職務成果に限られるわけではない。つまり、パフォーマンス=職務成果と捉えるのは視野が狭いのだが、これまでは、この等式に基づいた研究が多かった。
<パフォーマンスの定義>
定義:一定期間にわたり個人が実際に行なっている様々な行動の中で、たまたま組織有効性に貢献する間歇的な行動が組織にもたらす価値の総合
ポイント
�パフォーマンスを成果ではなく行動で捉えている点。成果は状況要因の影響が強いため、結果で個人を評価すると不公平が生じる可能性がある。このため、近年のパフォーマンス研究者たちは結果と行動とを厳密に区分し、行動だけをパフォーマンスとして捉えている。
�組織の価値判断入っている点。個人の行動はすべてがすべてパフォーマンス行動とは言えないし、逆に同じ行動でも、組織有効性に対する貢献の度合いは、組織がどのようなことに価値を置いているかに依存する。あくまで、組織の目標達成や有効性に貢献する行動だけがパフォーマンス行動だけがパフォーマンス行動である。
�パフォーマンス行動は間歇的に起こる。パフォーマンス行動は一定期間中、ずっと連続的に起こるのではなく、実際には、集中が高まる場合と下がる場合とで浮き沈みがある。
�パフォーマンス行動は概念的に異なるいくつかの下位次元で分類できる、多面的な概念である。
<パフォーマンスの4次元>
�タスク・パフォーマンス(職務成果(Job Performance))
より細かくは以下の2つに分けられる。
直接部門・・・インプットをアウトプットに変換し顧客に提供する一連のプロセスに直接係わる職務関連行動。
間接部門・・・インプットをアウトプットに変換するプロセスをサポートする人々の職務関連行動。
�コンテクスチュアル・パフォーマンス
自分自身のタスク・パフォーマンスを低める可能性がある一方で、より働き易い職場作りや雰囲気作りに貢献し、一緒に働く人々のタスク・パフォーマンスを高め、結果的に組織有効性に貢献するような行動。
お互いの調整やコミュニケーション、
協力・協同行動、
既存の役割を超えた行動、組織市民行動など。
�適応パフォーマンス
組織を取り巻く環境や、個人を取り巻く環境の変化に適応していくために個々人が取る行動。
具体的には、
変化がもたらす新しい問題や複雑な課題を創造的に解決する行動
変化のもたらす不確実で予測しなかった事態や状況にうまく対処する行動、
変化によって新たに求められる知識やスキルをすばやく身につける行動、
組織の変化に伴う人間関係の変化にうまく適応する行動、
変化によって生じるストレスにうまく対応する行動       など。
�反社会的パフォーマンス
組織の有効性を阻害する個人の行動。ネガティブな行動。ここから逆説的に、組織や社会のルール・規範を遵守することもパフォーマンスと考えられる。
無礼な行動
組織のルールや規範を意図的に無視し、組織や他人に損害を与える逸脱行動
背任行為
ただ乗り、社会的手抜き
組織から要求されている努力を意図的にサボる行動
組織の合法的な利害に反する個人の意図的な行動として定義される反生産的行動
組織のルールや規則を破ってはいないが社会のルールや規範を破ることによって結果的に組織有効性に大きなダメージを与える非倫理的・反社会的行動
<功績と課題>
�4つの次元の弁別妥当性
コンテクスチュアル・パフォーマンスと適応パフォーマンスの弁別性
コンテクスチュアル・パフォーマンスと反社会的パフォーマンスの弁別性
もし、これら2つの弁別性が認められないのであれば、これら2つはコンテクスチュアル・パフォーマンスに統合されるべきである。
⇒ 因子分析などによって各次元の規定要因の分析
もし、分析の結果、明確に異なる次元として表れる必要があると共に、要因が互いに異なっているか、あるいは、同じ要因が含まれていたとしてもその関係のパターンが明確に異なっていることが明らかでなければならない。
�状況要因の取扱い
パフォーマンスを結果ではなく行動と捉えるようにしたのは、状況要因による尺度の汚染を防ぐためであったが、たとえそうしたとしても、行動すらも結局状況の影響を受ける。気の合う上司の下では、部下は生き生きとしてタスク、コンテクスチュアル、適応パフォーマンス行動を積極的に取るのに対して、そうでない場合には、パフォーマンス行動を取りたくても取れない(心理的に取れない)状況に置かれているかもしれない。Griffin&Hesketh(2003)では、組織のサポート、死後tの複雑性や仕事における自律性などの個人にとっては状況とも言うべき変数に対する個人の認知が、能力や正確といった個人差変数に比べ適応パフォーマンスにより多くの影響を与えていると報告している。
感想
パフォーマンスを「成果」でなく「行動」と捉えるところは新鮮。確かに行動の結果は状況に左右される。そういう意味では、「良い結果が得る」という志向性を前提として「行動」を取ること自体に意味を見出そうとする考えは分からなくはない。ただ、「行動」だけを取り上げると、形だけを取り繕うパターンも出てこよう。そういう意味では、「成果」「行動」「マインド」の3つでもって「個人のパフォーマンス」という概念を構成すべきだと思うのだが・・・。少なくとも、「成果」はあくまで「行動」から期待されるものとして外すとしても、やはりマインドが無ければ行動から期待される成果は組織にとって有用なものではない場合もあるのではないか。・・・とここで、ただ行動を機械的に行なっても結果が伴うような形でシステムを形作ることも可能といえば可能か。ただ、そうしてしまうと、うっかりミスや手抜きも生じ得る。やはり「マインド」が必要なんじゃないかな。

追加:2010/2/10
パ フォーマンスを行動として考えるとして、「パフォーマンスが良い」とは、状況によって結果は異なるとしても、「現状の状況が継続する」、あるいは「予測さ れた状況が来る」という前提であれば、組織の有効性向上に資するような良い結果がであろうことを期待させる行動をとること。

では、その行動とは具体的には何??
どういった行動がそれに該当するの??
その行動がそういう期待を抱かせる根拠は?
結局、ここで価値観が効いてくるということか。
あるいは行動の説明責任が求められる。
すくなくとも「考える」ことが必要である。

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