2010年2月5日金曜日

不祥事報道において有効なコミュニケーションとは?:信頼の回復における感情的説得と論理的説得の効果

タイトル
不祥事報道において有効なコミュニケーションとは?:信頼の回復における感情的説得と論理的説得の効果
 
著者
杉谷 陽子
 
掲載
産業・組織心理学研究, Vol.23, No.2, pp.91-101, 2010.
 
アブストラクト
The purpose of this study was to investigate how, after the scandal of a company is made public, the company should communicate the facts of the scandal and apologize for it to its consumers in order to restore trust. Previous studies have shown that trust is composed of two dimenstions: the integrity -based dimension and the professional ability-based dimension.  In this study, the author proposed that the former dimension is based on one's feelings, while the latter dimension is found on knowing the fact, such as the objective factual data. The hypotheses of the study were as follows. If a company publishes an apology in a newspaper or has it reported on television, (1) emphasizing the emotinal message, as opposed to stressing on the logical aspect, would be more effective in restoring the integrity-based trust, and (2) the reverse would be true in the case of restoring the professional ability-based trust. The experiment mostly supported these hypotheses. The implications of the results for the theory of attitude and trust were also discussed.
 
キーワード
信頼, 不祥事, 説得, 広報戦略
 
要約
<研究の目的:>
企業が消費者から信頼を得るための具体的な方略をさぐること。具体的には、企業の不祥事が報道された場面を取り上げ、どのようなコミュニケーションを行なえば、消費者からの信頼を維持、回復できるのかを、実証的手法(既往研究を元にして仮説を立て、被験者実験を通じて仮説を実証する)によって明らかにする。
 
<立案した仮説:>
�「誠実さ」に基づく信頼は、感情的にアピールする説得メッセージを読んだときに、感情的にアピールしないメッセージを読んだときよりも高くなるだろう。一方で、メッセージに論拠が示されていたかどうかには影響されないだろう。
�「能力」に基づく信頼は、論拠をアピールする説得メッセージを読んだときに、論拠をアピールしないメッセージを読んだときよりも高くなるだろう。一方で、メッセージが感情的にアピールするものであったかどうかには影響されないだろう。
 
<方法>
実際の不祥事についての新聞報道記事を「実験刺激」として利用。具体的には、記者による事件の経緯の説明と洋菓子販売再開に当たっての安全対策についての説明、ならびに、当事会社側からの謝罪の言葉の原文。この刺激を呼んで、それに対する「反応」として「どの程度、この会社を信頼できるか」を調べる。
 
被験者は大学生160名。感情的アピールの強・弱×論理性の高・低 の4条件で、大学生はランダムでそれぞれの条件に割り振られた。
 
条件操作方法について、仮説�に関しては、感情的なアピール度のコントロールとして、感情的なアピールが強い条件については、「謝罪文は一般社員(被験者に立場が近い)が道行く消費者に発したもの」という教示をし、弱い条件については「謝罪文はオフィシャルな記者会見で、社長が発したもの」という教示を与える、という形とした。これは、「文章に感情が込められていると受け取るかどうか」は、「発信者と自分との間の立場的な距離」と関係しており、立場が近いと感じられる他者が発したものだと、人はそのメッセージにこめられた感情(謝罪の気持ち)をより現実感を持って捉えることが出来るというという仮説を前提としている。
 
仮説�の条件操作については、当事会社が実施した安全対策について、「論理性が高い」条件では、第三者機関から監査を受け、さらに、AIBと呼ばれる衛生基準を導入したことを明記した説明を記事に書き込み、「論理性が低い」条件では、単に「(経営陣が)安全であると判断した」としか書かなかった。
 
質問紙は、既往研究で出されている信頼性尺度を用いた。具体的には、「あなたは、今のホームページを見て、F社に対してどんな印象を持ちましたか」という質問に対して、
 
  1. 「好感が持てる」、
  2. 「技術力がある」、
  3. 「無責任だ(逆転項目)」、
  4. 「失敗を克服できる」、
  5. 「良心的だ」、
  6. 「情報力がある」、
  7. 「事件について反省している」、
  8. 「専門知識がある」、
  9. 「消費者の利益のために努力している」、
  10. 「製品の質が良い」、
  11. 「正直な」、
  12. 「消費者の視点に立っている」、
  13. 「同じような事件を繰り返す」
のそれぞれに回答する(段階数は不明)。
 
<結果>
因子分析の結果、「同じような事件を繰り返す」のみ除外され、その他の項目で、1,5,3,11,12,7,9が第一因子で、「誠実さ」に基づく信頼とみなした(α=.84)。一方、2,8,10,6,4が第2因子で、「能力」に基づく信頼とみなした(α=.71)
実験操作については分析の結果、成功していたとみなした。(詳細は略)
仮説の実証については、以下の通り。
  • 誠実さに基づく信頼の尺度に於いては、感情性による有意な主効果が見られ、感情性の高いメッセージの方が感情性の低いメッセージよりも「誠実さ」に基づく信頼の評価が高かった(p<.01)。交互作用、論理性と「誠実さに基づく信頼」の主効果は、共に無かった。⇒仮説�は支持された。
  • 能力に基づく信頼の尺度に於いては、論理性の高低による主効果が有意傾向であった。論理性の高いメッセージの場合、低いメッセージよりも能力に基づく信頼性の認知が高かった。交互作用、感情性と「能力に基づく信頼」の主効果は無かった。⇒仮説�は限定的では在るが、支持された。
 
 

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