2010年7月29日木曜日

飲食店アルバイトの感情労働と客からの感謝・賞賛が職務満足感に及ぼす影響

タイトル
飲食店アルバイトの感情労働と客からの感謝・賞賛が職務満足感に及ぼす影響

著者
須賀 知美, 庄司 正美

掲載
目白大学心理学研究, Vol.6, pp.25-31, 2010.

アブストラクト
本研究の目的は飲食店アルバイトを対象に、感情労働と客kらの感謝・賞賛が職務満足間に与える影響を検討することである。t検定を行なった結果、各質問項目の得点に性差は見られなかった。勤務期間について1要因の分散分析を行なったところ、新人と中堅、新人とベテランでは勤務期間の長さに差が見られたが、中堅とベテランには差が見られなかった。そのため、調査参加者を新人群と、中堅・ベテランからなる非新人群に分けて各質問項目の得点を比較した。t検定の結果、両者の間で感情労働の"敏感さ"、"ポジティブ表出"および職務満足感の得点に差が見られた。また、階層的重回帰分析の結果、新人群では客からの賞賛が、非新人群では感情労働の"敏感さ"が職務万足感に影響していた。これらの結果から、アルバイト先での立場による感情管理スキルの差が職務満足感に影響していることが示唆された。さらに、本研究の限界や今後の課題について議論がなされた。

キーワード
感情労働, 感謝, 賞賛, 飲食店アルバイト

要約
〔研究目的〕
�飲食店アルバイトを対象に、感情労働と客からの感謝・賞賛が職務満足感に与える影響についての検討
�感情労働や職務満足感についての性差による違いの検討
�新人・非新人(各自が自分をどう認識しているか)の違いによる感情労働と客からの感謝・賞賛が職務満足感の違いの検討

〔測定対象〕
飲食店アルバイト経験のある大学生87名。(男性16、女性71、平均19.9歳(±1.01))

〔結果〕
�性差について
・ 感情労働(「感情の不協和」、「客の感情への敏感さ」、「客へのポジティブな感情表出」のそれぞれについての経験・頻度)、客からの感謝の経験、客からの賞賛の経験、職務満足感について男女差は無かった。
・ 「感情の不協和」については、ネガティブな感情を抑えることであり、これは既往研究と同様の結果であった。
・ 一方、敏感さやポジティブ感情表出はジェンダーに関連し、女性の方が笑顔や気遣いが求められると予想され、これらについては男性より女性の方が経験が多いと予想されるが、今回の結果はその予想と反する。これは、質問項目自体が性差が見られるようなものではなかったためと考えられる。
・ 感謝・賞賛については、客は受けたサービスに対して感謝・賞賛を返すのであって、サービスの提供者の性別には関係が無いためと考えられる。
・ 職務満足については、学生アルバイトという立場では、性別による待遇や評価の差は少ないためと考えられる。

�新人・非新人の違いについて
・ 「客の感情への敏感さ」と「客へのポジティブな感情表出」、職務満足感は、新人よりも非新人の方が得点が高かった。一方、「感情の不協和」、感謝・賞賛については立場の差はなかった。
・ 「客の感情への敏感さ」と「客へのポジティブな感情表出」は、感情管理スキルとも言え、勤務年数の長い人の方がこれらのスキルを習得しているために新人群よりも高いと考えられる。
(今回のアンケートでは「出来る—出来ない」ではなくて、「よくある—全く無い」のスケールなのだから、スキル習得することが、「これらを行なうべきケースだ」という状況認知を鋭敏にするという解釈するのか??でないと、「スキル習得」が「経験が多い」ということとどう結びつくのだ?)
・ 職務満足感は、上記とも相俟って、非新人は、感情管理スキルを駆使することによって、自己や客を操作し、仕事の自律性などを得、それによって職務満足感を得ていると考えられる。
・ 「感情の不協和」は、不愉快な客に対する我慢の経験であり、気遣いや親しさの表出といった「敏感さ」「ポジティブ表出」に比べ、新人であろうと非新人であろうと経験しやすい行動であるためと考えられる。(←ネガティブ感情なことに対しては人はセンシティブだから?あるいは、不愉快なことに対する我慢のスキルは既に新人であってもそれまでの人生の中で身につけている?まあ、これならば納得がいく)
・ 感謝・賞賛については、性差と同様に、客からすれば新人・非新人は関係ない。

�感情労働、客からの感謝・賞賛、職務満足感の関連について
・ 新人・非新人に分けて、それぞれの中で、各項目同士の相関係数を算出。
・ 新人群:「ポジティブ表出—賞賛」(正の相関)
・ 非新人群:「敏感さ—感謝」「敏感さ—賞賛」「敏感さ—職務満足」、
        「ポジティブ表出—感謝」「ポジティブ表出—賞賛」」(いずれも正の相関)
・ 「ポジティブ表出」や「敏感さ」が、客からの感謝・賞賛につながるのは十分納得がいく。
・ 「敏感さ」が職務満足と関連していることについては、既往研究から飲食店アルバイトにとって、「敏感さ」は接客上大切であり職務にとってふさわしい行動であり、感情労働の中で最も重要視している部分であることが明らかになっている。このことから、飲食店アルバイトにとって「敏感さ」は接客上大切であり職務にとってふさわしい行動であると考えていることから、気遣いするほど職務満足感が高められると推測される。

⇒というより、、、「敏感さ」が高い(「敏感さ」を発揮すること(経験すること)が多い)という回答は、職務にとってふさわしい行動を自分は取れていると思っている、ということを示していることであり、「そのような行動を取る」ということと「職務に満足している」ということとは「動機づけ」や「感謝・賞賛」という変数を媒介して何らかの関連を持っているということは十分に考えられる。つまり、「行動を取る」⇒「感謝・賞賛を得る」⇒有能感を持つ⇒「職務満足」という流れや、「職務に満足」⇒動機づけ⇒「行動」など。
まあ、要するに、「敏感さ」と「職務満足」は何らかの媒介変数の存在を考えないことには、直接の因果関係は想像しにくい。要するに擬似相関だと考えられる。

�感情労働、感謝・賞賛が満足感に及ぼす影響(重回帰分析)
・ 新人群においては、「賞賛→職務満足(正の影響)」のみ有意。
・ 特に、感情労働の経験(頻度)から職務満足へのパスは有意ではなかった点について、新人は感情管理スキルが習得されていないため、新人における感情労働は職務満足感に影響するほど強いものではないと推測される。
⇒理由はどうあれ、とりあえず、新人君に於いては感情労働を強いられることと、職務満足とは直接的な因果関係が無いということ。

・ 非新人群においては、「敏感さ→職務満足(正の影響)」のみ有意。
・ つまり、「敏感さ」を示すこと自体が職務満足感に影響を示している、ということ。
・ また、「感謝・賞賛→満足」のパスが有意でなかった点について、ほめ言葉が職務満足感に影響するのは、比較的接客経験の浅い新人期だけであって、客の扱いになれた中堅やベテランにとっては職務満足感に影響するほどのことではないのかもしれない。
⇒これは面白い。、「敏感さ」を示すこと自体が、自分自身の有能感を感じさせ、それを感じれる時間・状況である「職務」に対して満足感を持っているということか。
階層的回帰分析だから、「敏感さ⇒感謝・賞賛⇒満足」というパスも調べられているはず。こちらが有意でないというのは意外。要するにベテランになると、感謝や賞賛は、しょっちゅうもらうものなので、それへの喜び感は失われて、そういう外的な報酬から、自分自身の中から内発的に生み出される有能感や自律感への、満足に影響を与える要因が変っていく。

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