2010年7月28日水曜日

観光業と職務満足—旅行会社の場合

タイトル
観光業と職務満足—旅行会社の場合
Tourism and Job Satisfaction - The Case of Travel Agents

著者
山口 一美

掲載
立教大学国際学部紀要, Vol.17, No.1, pp.13-27, 2006.

アブストラクト
The purpose of this study was to investigate the relationship among job satisfaction, years of service to the company, years experiences, overtime hours, age, and personalities (self-monitoring, social anxiety, and optimism). 48 staff in travel agents completed a questionnaire of these. A factor analysis on the job satisfaction yield four factors: management satisfaction, human relationship satisfaction, growth satisfaction, and recognition by others' satisfaction. The multiple regression analysis showed that optimism, years experience, and social anxiety were the top three important predictors of job satisfaction.

キーワード

要約
〔研究の目的〕
「満足している従業員は適切な態度で顧客に接する」という仮説を前提に、職務満足に影響を与える要因を同定すること(その要因を元に採用や教育などを施すこと)を目的として、旅行業従事者を対象に、
�職務満足の下位因子(構成概念)の検討(因子分析)
�下位因子と、対象者のバイオフィー(具体的には:性別、勤務年数、経験年数、残業時間、年齢)や対象者のパーソナリティ(具体的には:セルフモニタリング、対人不安、楽観主義)との関係を、相関係数による分析と重回帰分析
の二つを実施した。

なお、セルフモニタリングは以下の2点から構成されるとして、それぞれを要素として取りあげている。
・自己呈示の修正能力
  他者の要望に対して自分の行動を変えることが出来る能力
・他者の表出行動への感受性
  他者の行動に敏感で何が適切かをすぐに見つけ出す能力


〔結果〕
職務満足は、以下の4つの下位因子からなることが分かった。(要するに「今の仕事の内容に満足している」というのは、以下の4つの因子について満足しているということ)
(1)経営満足    :収入、会社の経営や昇進に対する満足など
(2)人間関係満足 :同僚や上司との人間関係への満足など
(3)成長満足    :仕事によって成長する、やりがいがあるなど
(4)承認満足    :仕事に適している、認められているなど
そして、これらの因子間の関係については
経営満足は、他者からの承認など仕事に対する動機づけに関する満足とかかわりがあることが明らかになった。このことから、旅行業において、給与が単なる経済的欲求の充足手段ではなく、仕事の達成度のかくにんや会社からの評価につながることが示された。また、この傾向は女性の方で顕著であり、女性は給与による評価を望んでいることが示された。


職務満足の下位因子とバイオグラフィーとの関係に関しては、男女全体では、以下の2点の間のみ有意な相関があった。
 ・経験年数−人間関係満足(負の相関)
 ・経験年数−成長満足(正の相関)
このことから、職場の人間関係は重要ではあるものの旅行業の業務の場合には、個人的な顧客との対応が主な仕事であることから、仕事自体にやりがいを感じる機会が多く、その仕事を経験し続けることが可能であることが示された。
男女別では、女性については以下の2点の間に有意な相関があった。
 ・勤続年数−経営満足(負の相関)
 ・経験年数−人間関係満足(負の相関)
男性については、以下の1点の間に有意な相関があった。
 ・年齢−承認満足(正の相関)
このことから、旅行業に従事している女性は長く勤務あるいは経験しているものの、給与、会社の経営、人間関係に不満を持っていることが示された。また、人から認められているという感覚が強い男性ほど年齢が高く(年齢が高い男性ほど人から認めれれていると感じている)、また、承認満足の男女差においても男性が高いという結果からも、旅行業における管理者は女性が満足して仕事を続けることが出来るように、処遇制度の見直しや職場の人間関係の整備などを実施する必要があろう。

職務満足とパーソナリティとの関係に関しては、男女全体では以下の点で有意な相関があった。
セルフモニタリングにおける自己呈示の修正能力—成長満足(正の相関)
対人不安−承認満足(負の相関)
楽観主義−経営満足、成長満足、承認満足(それぞれ正の相関)
これらから、旅行業に従事するものは「楽観主義でセルフモニタリングの中の自己呈示の修正能力が高く、対人不安が低い」ことが、満足して積極的に仕事を行っていくために重要であることが示された。サービス業において、セルフモニタリングの中の自己呈示の修正能力が高いというパーソナリティを有していることが重要であるという先行研究を支持する結果であった。

重回帰分析から、旅行業に於いて、以下の2点のパーソナリティを持っていることが、高い職務満足につながるが明らかになった。
・楽観主義傾向が強い、
・(男性では)対人不安が低い
このことは採用の際に、これらのパーソナリティを持っているかに留意することの必要性を示唆しているといえよう。


今後の課題として、
1.給与額や昇給時期などと職務満足との関わりの検討⇒衛生要因である給与がどの程度、満足度に影響するのか
2.公的自己意識と職務満足との関わり、自尊心と職務満足との関わり、など他のパーソナリティとの関わりの検討
 サービス業においては、これらが重要であるという知見がある。
 ※ 公的自己意識:他者から見られる自分を意識する傾向
3.エンパワーメントと職務満足との関係
 エンパワーメントをもつことでどのような職務満足が向上するのか、それが従業者の定着率やロイヤリティにどのような影響を与えるのかを検討するべし。
 旅行業では、個々の顧客のニーズに合わせたホスピタリティを提供する際に、マニュアルで決められた行動のみで体操することが難しいため。
 ※ エンパワーメント:従業者に自分の業務についての決定能力と権限を持たせること

感想
セルフモニタリングを「スキル」ではなく「パーソナリティ」に含めている点には違和感がある。。。まあ、結果は結果で考えれば良いが。

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