2010年7月27日火曜日

感情労働が職務満足感・バーンアウトに及ぼす影響についての研究動向

タイトル
感情労働が職務満足感・バーンアウトに及ぼす影響についての研究動向
A Review of Studies on the Effect of Emotional Labor on Job Satisfaction and Burnout

著者
須賀 知美, 庄司 正美

掲載
目白大学心理学研究第4号 137-153, 2008

アブストラクト
感情労働が職務満足感やバーンアウトに及ぼす影響については、これまでの研究で一貫した結果が得られていない。本稿は、これまでの研究を概観し、研究対象や測定方法などを整理することを目的とした。その結果、さまざまな職業が調査対象とされ、感情労働の測定指標も様々であることが明らかになった。この測定指標の混在が、一貫した結果が得られてない理由の一つと考えられる。また、感情労働以外の独立変数や調整変数、媒介変数について、仕事の自律性やソーシャル・サポートなどの労働条件や職場環境に関する変数は多いが、パーソナリティや態度のような変数が少ないこと、労働者が感情労働を行なうことによるクライエントや客からの感謝・商人を含めた検討が殆ど無いことが指摘された。また、感情労働と他の変数の交互作用の検討も少ないことが示された。さらに、日本での分件数は外国の分件数と比較するとはるかに少ないことが明らかになった。これまでの研究の問題点に対する今後の課題について言及された。

About the influence of emotional labor on job satisfaction and burnout, empirical studies so far have not found consistent results. The puropse of this article was to review previous studies about the effect of emotional labor on job satisfaction and burnout. As a result, we clarified that the participants were chosen from various occupations, and various kinds of index were used as the measurement of emotional labor. In addition, it is revealed that many variables about working conditions and workplace environments, such as autonomy and social support, were used as indepenedent variables except emotional labor, moderator and mediator. On the other hand, the variables such as personality, attitude and thanks or approval from clients or customers were examined hardly. Moreover, we found that the studies for interaction of emotinal labor and other variables were very few. Futhermore, the number of studies in Japan is far few compared with foreign studies. To address these issue, study problems in the future discussed.

キーワード
感情労働, 職務満足感, バーンアウト

要約
感情労働の定義・・・・
「職場には職業上適切な感情やその表出方法、または不適切な感情が定められた『感情規則』というものが存在している。労働者はその規則に従い、客に対し適切な感情を持っているように見える表情やしぐさをする『表層演技』と、そう感じるように自らの感情を誘発する『深層演技』を行なう。つまり、職業上適切な感情状態を保つための感情管理が職務内容の一部になっている。Hochschild(1983)は"Emotinal Labor"を"公的に観察可能な表情と身体的表現を作るために行なう感情の管理"と定義している。そして"感情労働は賃金と引き換えに売られ、したがって交換価値を有すると述べている。」

感情労働の特徴・・・
(1)対面あるいは超えによって人と接することが不可欠な職種に生じる。
(2)他人の中に何らかの感情変化(感謝や安心など)を起こさなければ成らない
(3)雇用者が研修や管理体制を通じて労働者の感情をある程度支配する。

感情労働と職務満足の関係性・・・
これまでのところ一貫した結果は得られていない。
その理由として以下のものを挙げている。

(1)調査対象者
調査対象となる職業について、異なる感情規則を持つ職種を整理・分類しないまま分析しているため。異なる感情規則を持つ職種を混在させてしまうと、ある職種に特徴的な感情労働の性質をとらえることができない危険性がある。

(2)測定変数・尺度について
感情労働を測定する尺度は大きく分けて以下の3つに分類される。前者2つは個人の行動や内的な状態を測定していることから心理学的な測定方法である。後者は個人を職業によって分類することから社会学的な方法である。このような「感情労働」を測定する指標が複数混在している状況が、一貫した結果が得られない要因の一つであると考えられる。
 〔1〕Brotheridge & Lee(1998)の「表層演技・深層演技」の下位尺度を持つ感情労働尺度
 〔2〕Zapf et al.(1999)の「ポジティブ感情の表出の要求・ネガティブ感情の表出と抑制の要求・クライエントへの感情への敏感さの要求・相互作用の統制・感情の不協和」の下位尺度を持つFrankfurt Emotinon Work Scales
 〔3〕職業分類を用いて感情労働を行なう職業であるか否かによって調査参加者をグループ分けする方法
 (要するに、感情労働と目される職業についているか・否かと、職務満足度が関係があるか)
感情労働性を測定する尺度の適切さに関しては、感情労働の捉え方についての議論と、感情労働性を測定する際の指標に関する議論がある。
 〔1〕感情労働の捉え方についての議論
 Grandey(2000b)は、「感情の不協和」はネガティブな状態であるのに対して「表層演技」「深層演技」は本質的意味として肯定的でも否定的でもない。したがって、感情労働は「表層演技」と「深層演技」から構成されると考えた方が適切だと主張している。・・・あくまで「こういう行動を多く取るものは感情労働」という捉え方。
 Zapf et al.(1999)では、action theory が感情労働の構成概念と関連しうる理論的枠組みを提供していると考えている。この視点からFarnkfurt Emotion Work Scaleを作成している。
 〔2〕感情労働性を測定する際の指標に関する議論
 これまでの尺度や分類の多くは、個人の感情労働を「する/しない」や、頻度や程度の測定に着目しており、「感情労働を行なうことがどのくらい大変か」という負担感を測定したものは無い。同じ感情動労働でも個人の負担感は異なると考えられる。このようなことから、個人の負担感を用いることが感情労働の測定指標として有用であると思われる。
⇒ さらには、「個人の負担感の違い」がどこから来るのか、ということについても研究対象として取りあげることもいいのではないか。

(3)その他の変数による感情労働や職務満足感への影響について
 セルフ・モニタリングの自己呈示変容能力、対人不安や二面性、傾聴性が職務満足に影響を与えるとする研究結果があるが、これらは感情労働にも関連することが予想される。
 また、感情労働を行なうことはストレスだが、それを通してクライエントや顧客から感謝や高い評価を与えられ、それによってストレスが減じられ精神的健康を保つ可能性もある。小村(2004)は、感情労働を受容し、顧客に積極的に接近することによって自己承認や職務上の喜びなどが感情労働のもたらす心理的影響をポジティブなものにしていると指摘している。


感想
なんとなく家庭生活も感情労働か・・・。

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