2010年6月22日火曜日

検査課題における不安全行動の効果的な防止

タイトル
検査課題における不安全行動の効果的な防止
Preventing unsafe acts in inspection tasks

著者
田中 孝治, 加藤 隆

掲載
心理学研究, Vol. 81, No.1, pp.35--42, 2010.

アブストラクト
Unsafe acts such as ignoring scheduled inspection can cause serious consequences. This study examines the effects of two reinforcing stimuli and four reinforcement schedules in maintaining sampling behavior in a virtual inspection task. Participants were asked to decide (yes or no) for each "product" wheteher it should be sampled for inspection. In Experiment 1, "yes" responses were reinforced with the message that defectives were found, once for every one to nine (on average five) times (VR), only the first time (FTO), or never (None). The sampling behavior declined gradually in FR and VR and somewhat surprisingly more sharply in FTO than in None. In Experiment 2, the sampling behavior was effectively maintained when the participants were regulary provided with the evaluative feedback on their sampling behavior, although they were kept informed that defectives were not found. These results indicate the importance of utilizing reinforcing stimuli whose administration is independet of the outcome (e.g. defective or not) of the response (e.g., inspection) to be reinforced.

キーワード
unsafe act, reinforcing stimuli, reinforcement schedule, inspection task.

要約
要するに、まず前提として、
(theme)品質管理や安全管理が的確に成されていればいるほど、不良品や不具合の発生頻度は低くなり、不良・不具合発見という強化刺激を受ける機会は少なくなる。一方で、ある程度の割合で不具合・不良発見が行なわれなければ、それは、「検査行動」に対する正の強化刺激が与えられないということになるので、検査行動の実施頻度の低下を招きうる、というジレンマのモデルが考えられている。

(Objective)検査行動をいかに適切に持続させるか、という点での人の不安全行動の防止策を検討する。そのための手掛かりとして、2つの実験を行なった。

(Exp1)「最初の検査行動に対して、一発、強化刺激を与えた後、その後は検査行動に強化刺激を与えない」という強化刺激スケジュールの行動維持に対する効果は、全く強化刺激を与えない場合や、すでにある程度の効果が認められている強化スケジュール(要するに、固定比率で強化刺激をあたえるスケジュールと、変動比率で強化刺激を与えるスケジュール)に比べて、どの程度のものなのか?

→結果として、無強化条件、固定比率条件、変動比率条件に比べ、初回刺激条件では、行動が維持されなかった。原因は、この実験からは明確には分からないが、少なくとも、安易に「練習」的に最初のうちに集中して強化を与える(不良品の発見を体験させる)というのは、何もしないよりも却って結果を悪くする可能性があることが示唆された。

(Exp2)「強化刺激」に位置づけるものとして、「不良品の発見」を用いるのではなく、「検査が一定の割合以上で行なわれているか(行われていれば「合」、行われていなければ「否」)の評価の定期的フィードバック」を用いた場合の、行動維持の効果はどの程度のものなのか?対象実験にあたる条件として、実験1の無強化条件、変動比率条件も実施

→結果として、検査が行なわれているかの合否評価を与えた場合の方が、行動は維持される。

(総合考察)
本実験の実験1の結果から、以下のようなことが起こる可能性があることが示唆されている。
すなわち、初期には不良品が比較的多く発見されたとしても、その後の品質管理によって発生頻度が抑制されるはずである。しかし、実験1の初回のみ条件の結果は、品質管理の工場が皮肉にも品質検査の怠りに結びつき、それが不良品や不具合の検出の妨げになる可能性があることを示唆している。
(要するに、「ラインの立ち上げ時には不良率は高い。そのため、検査行動はその高い不良率でもって強化される。しかしながら、ラインが成熟してくると不良率は当然低下する。すると、それによって検査行動は、何の強化もされない場合よりも一層、消去される」というモデルが具現化される可能性は確かに存在する)

さらに実験2について、「リスク認知が不安全行動を抑制させる」という知見があるが、今回の「評価」というものを与えることは、実験参加者に対して「ある事柄」へのリスクを認知させることになったといえる。それは、すなわち、「自分自身の検査行動の評価(つまり、自分自身の評価)が悪くなること」である(検査をサボタージュして不良を見逃すというリスクではないことがポイント!!)。「検査をサボタージュして不良を見逃す」というリスクよりも「評価」というより分かり易いパーソナルなリスクに変換できたため、容易にリスク認知でき、検査行動が効果的に維持されたと考えられる。

・・・・ここはちょっと疑問。「検査をサボタージュして不良を見逃す」というのも、「自分の評価を下げる」という意味でリスクなのではないかな?ポイントなのは、「たまにしか出てこない、殆ど出てこないかもしれない、0.00・・・%ということが起って、評価が下がる」というリスクと、「それをしないと、確実に評価が下がる」というリスクとの比較だからこそ、認知しやすかったのではないかなぁ・・・。

本研究の結果は、人の検査行動に対する強化の利活用について重要な示唆をしている。すなわち、検査院が自分自身でてきかっくにリスク認知を行なうことには限界があることから、不安全行動による事故の責任を検査員個人に帰するのではなく、検査行動そのものを評価するなどの制度を組織として構築していくことの必要性を示している。検査員のリスク認知を容易にすると言うメリットが期待でき、さらに、リスクが自分自身の評価というパーソナルなものであるため、肯定的・否定的どちらの評価結果も、自分自身の評価を向上させようとする動機によって、検査行動の維持に効果を持つものと期待できる。つまり組織自体が検査の継続そのものを明示的に制度として評価するならば、その評価は検査員に対する効果的な強化刺激となり、検査員の不安全行動による事故を防ぐことが出来るものと期待できる。

感想
結構、最後の総合考察は面白い!!
特に、個人の行動が組織の制度によっても規程されるのだから、上手く制度設計するべきだと述べている点はまさに納得!
さらに、上記の結果の考察としてはなんとも言えないが、少なくとも「パーソナルな評価」というものに対する「リスク」は、人は敏感だということ。
これは、人の特性みたいなものとして考えてもよいだろう。
難しいリスクを言うより、パーソナルなリスクに置き換えてやるほうがよいだろうね。
さらには、そのパーソナルなリスクにしても、そのリスクが顕在化する確率を、制度を上手く設計することで高める(リスクの質は変るとしても)ことが出来る。
パーソナルなリスクと、本来、組織として避けたいリスクが直接に結びつかなくても、間接的に、結果として結びツテいればよい。
その意味で、「やったかどうかを評価する」というのは、「やる」と言う行動は誘発する。そして、「やる」ことによって不良発見率も高まる。間接だが、それでよい。
こういう考え方で、うまく制度設計してやれないか。

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