2010年6月4日金曜日

食品の安全性と企業逸脱

タイトル
食品の安全性と企業逸脱

著者
宝月 誠

掲載
立命館産業社会論集, Vol.42, No.3, pp.1-23, 2006.

アブストラクト
食べ物の安全性について、本研究は企業逸脱の観点からアプローチする。食べ物の大半が商品として生産・流通している現状からすれば、食品の製造・販売企業の行動に焦点を定めて安全性の問題を考えることは意義がある。第1に安全性を損なう食品企業の逸脱がどのようにして生じるのかを明らかにし、第2に職の安全性を高めるために企業に対する社会的コントロールのあり方を論じ、第3に安全性について考え方を再検討する。明らかにされたことは以下の点である。(1)食品企業の逸脱のタイプは、「安全軽視型」「利益本位型」「逸脱誘因型」「組織弛緩型」に分類される。これらいずれのタイプについても説明するのは、「企業は絶えず、なんらかの問題状況に直面しているが、違法な手段によってその解決が可能であると『状況の定義』をする経営者や担当者がおり、またそれを指示する企業文化が存在するときに、企業逸脱の可能性は増す」という命題である。(2)食品企業の逸脱はこの要因に加えて6つの他の要因のどれかが関連している。現実的な対応としては、コントロールしやすいいずれかの要因を取り除くことが有効である。(3)食品の安全性を高めるには、「日常生活感覚」や「科学的根拠」、「最悪のケースの想起」に基づく安全性の考え方を超えた新たな意味世界が必要となる。

キーワード
食品の安全性、食品企業の逸脱、コントロール

要約
食品の安全性という観点から食品関連企業の「逸脱」について、(1)逸脱発生の原因と対策、(2)そもそもの「安全」というものに対する考え方、の2点について論じている。
ここで「逸脱」とラベル付けしているものは、要するに食品の安全性・信頼性を損なう行為を行なうことを指す。

(1)逸脱発生の原因と対策について・・・・
既往研究のレビューから、「企業逸脱がどのようにして生じるか」について以下の7つの命題を提起する。
【命題1】過度な市場競争の状態であるか、あるいは、集中化・寡占化が進んでいる状態など、市場環境が企業や業界に逸脱機会を与え易いものであるほど、企業逸脱の可能性は増す。

【命題2】技術的に不確実性が高い・信頼性が低いものである場合や、人による操作ミスが起こり易い(不注意・能力不足・過労などによって)場合であればあるほど、企業逸脱の可能性が増す。(→ここでの逸脱は悪意のあるものだけでなく、結果として社会から「逸脱した」とラベル付けされたもの全般を「逸脱」と呼んでいる。)

【命題3】行政や司法機関による効果的なコントロールが機能していない場合や、規制緩和などで規範が緩やかになった場合では、企業は身勝手な行為を行ない易くなり、企業逸脱の可能性が増す。逆に、被害者・大衆・メディアによる批判が強いほど、コンプライアンスのポーズをとることが多くなる。

【命題4】絶えず直面している問題に対して、違法な手段によってその解決が可能であると「状況の定義」をする経営者・担当者がおり、それを支持する企業文化が存在する時に、企業逸脱の可能性は増す。
→より具体的には以下のような場合に逸脱に踏み出す可能性が高い。
<第1>:企業が直面する問題状況の解決を迫るプレッシャーが強く、これらの問題を解決できない経営者・担当者を無能とみなす企業文化の強い場合。
<第2>:企業の社会的責任や信頼性を重視する意識が弱い組織文化の下では逸脱は生じ易い。逆に、これらが強い場合には逸脱をするモチベーションは規制されるし、行なったところで組織内部で支持されない。
<第3>:第2のような文化の違いは、経営者や担当者が、どれだけ広い社会的視点と長期的な時間的パースペクティブを有しているのかという点に如実に表れる。(→これだけ、第2の補足になっている・・・)
<第4>:企業を取り巻く社会そのものが、安全性を重視する集合意識を思っている場合には、企業内部や業界もそれを意識して(「反映して」の方が正しいと思うが・・・)社会的責任を強調する。逆に、社会のあらゆるもの(たとえばスポーツ活動や学校、医療などまでも)が市場化され、競争や利益追求が強調されると、企業も相した社会潮流の影響を受け、社会的責任意識が希薄化する。社会が市場化へと向かうと、個の利害関心に基づく合理的計算は増えても、意味世界の公共性は弱まる。

【命題5】企業犯罪が実行されるのは、組織の管理システムが逸脱をサポートする体制となっているときである。ここで管理システムとは、「逸脱を命じる強制的な権力」、「社員に逸脱行為を引き受けさせる魅力的な報酬」、「愛社精神(組織が生き残るためには違法行為もやむなし、と自ら正当化する)」、「他の企業が違法なことをしている」、というものを指す。

【命題6】組織内部で企業行為を相互にチェックする機能が働きにくい組織ほど、企業逸脱を予防しにくい。ここでは、特に相互チェックは他者への干渉であるので下手をすれば組織の部門間の軋轢を生むことになりかねず、組織内でその実施に消極的になる場合が多く、そうした組織では逸脱を事前に回避できる力は弱まる。

【命題7】組織内部で情報共有が円滑におこなわれておらず、企業行為のミスやリスク情報が共有されることが少ないほど、逸脱は回避されにくくなる。一部の部門や担当者に認知されたリスクも、隠蔽されたり、特定の部門・担当者にとどめられ内部で処理されたり、時には放置されたりする傾向が強いと、小さなミスやリスクの認識が放置されたままになって、ミスやリスクが新たなミスやリスクを惹き起し、最終的に重大な事故を招くこともある。

以上の7つの命題は仮説であるが、実際の食品関連企業の逸脱の説明においては、どの命題がより関連しているか。それを調べた。結果として、逸脱のタイプは、「安全軽視型(命題2+4+7)」「利益本位型(命題1+4+5)」「逸脱誘因型(命題3+4+6)」「組織弛緩型(命題4*3)」に分類された。(特に組織弛緩型とは、企業やそのメンバの利益は重視しても企業活動の社会的責任に対する意識は比較的希薄で、かつコントロールかんきょうもそしきにたいして 庇護的であり、また組織内部で相互に行為をチェックする体制に欠けている場合を指す。要するに、ぬるま湯につかっている組織)
これらから、命題4が全てに共通していることが分かった。

企業逸脱をコントロールするためには、安全軽視型においては、経営者や担当者の社会的・時間的パースペクティブに働きかけて、彼らの意思決定の仕方を変更させる取り組みが重要。利益本位型は逸脱をサポートするような管理システムを改善していくべき。逸脱誘因型は、外部のコントロール環境はメディアの報道や消費者運動によってになわれるが、企業の不祥事を契機にして、企業批判が高まる。こうした動きによって行政や政府もフォーマルなコントロールの改善を示さざるを得なくなる。組織弛緩型は、外部のコントロールが必要。

(2)食べ物の「安全性」についての考え方・・・・
安全に対する考え方は企業や消費者、行政、専門家の間で必ずしも同じではない。
安全に対する考え方は3つ
 ・生活感覚に基づく安全性・・・・素朴に「これは危ないのではないか」と感じるもの。消費者、メディア。

 ・科学的根拠に基づく安全性・・何%の確率での危険性を示すもの。さらには、それを基にリスクを如何に制御するか、受容するか検討するもの。リスクコントロール=「リスク評価」「リスク管理」「リスクコミュニケーション」。業者と政府・行政。ただ、厳密に有害性・危険性が証明されなければ、現状の流れを止めない・対策しない(そのほうが、業者にとっては都合が良い)、という不作為も生み出す。

 ・最悪ケースの想起に基づく安全性・・・最悪のケースが起こる場合を想起し、それに基づいて備え、対応し、災害を回復しようとする戦略。市民グループ。

このようなそれぞれの安全性の捉え方の分裂が、食の安全に対する問題の解決(社会的な意味での解決)の足を鈍らせている。互いに相手の視点を取得し、相互理解を府負ける相互作用に、分裂解消の可能性がある。科学的な知見を取り入れ、イマジネーションを膨らませ、日常生活の状況で現実的に安全性について考えるようになることで、安全性に関する意味世界も新たなレベルになる。そのためには、以下のような事柄の議論が必要である。
【感覚の共有】
・消費者が生活感覚で「不安」と感じる食品に対して、生産者・行政はどれだけその不安を共有し、解消できるか。
・安全性に対して「不確実性が高い」と感じる食品を、業者が開発・販売したり、行政が認可する場合に、どれだけ懸念を解消できるか。
【持続性(サスティナビリティ)への認識】
・現在のことだけでなく、「子孫への影響」も考慮して、安全性を確保する必要性についての共通認識はどれだけ可能か。
・「環境への影響や資源の浪費」といった点についてもどれだけ関係者の間で共通認識を持つことが可能か。



感想
う〜ん。。。根拠がいまいちというか、目からうろこがないというか。やってることに対しても、結果に対しても。
まあ、安全に対する考え方が3つあるという、後半部分はそこそこかなぁ。

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