2009年1月19日月曜日

サービスの信頼性とサービス工学

タイトル
サービスの信頼性とサービス工学

著者

下村 芳樹

abstract

近年、サービスの設計・生産に工学的・科学的なアプローチを適用することにより、その飛躍的な改善を実現することへの期待が急速に高まっている。本稿ではサービス工学と呼ぶ新しい研究領域の概念とそこにおける研究の一環として開発を進めているサービスCADについて紹介するとともに、サービスと信頼性の関係に関する私見に基づく分析を試みる。

引用元

日本信頼性学会誌, Vol.31, No.1, pp.2-9, 2009

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独自のkeyword
サービスの定義、サービスの特徴、サービスの表現方法

要約・感想

1.はじめに・・・

サービスの評価は受け手の個人的主観に強く支配される(サービスの変動性)、生産と消費が同時に起る(サービスの同時性)、明確な物理的形がない(サービスの無形性)、サービスは在庫を作れない(サービスの消滅性)という特徴がある。従来の工学では、あくまで物理的実体を持った「モノ」を対象としていたが、これらの特徴をもつサービスに対しては、従来とは異なるアプローチが必要である。そこで、本論文ではどのような工学的アプローチが可能であるかを展望している。



2.サービスと信頼性・・・

サービスの信頼性を、個々の受け手に提供されるその場その場でのサービスそのものの信頼性(※:論文では品質と同義に用いている)を「モノ」の信頼性と同様に取り扱うことは困難だが、サービスを提供する「仕組み」に関しては、「あるクラスタの顧客層をターゲットとして、その顧客層が持つ満足度を統計的に処理して、一定の範囲内に収める、そのようなことが可能な仕組みを構築する」という観点から、信頼性を取り扱うことは可能であると考えられる。実際、Customer Satisfaction Indexを用いて、信頼性を可視化する取り組みは多くなされている。しかし、これは、あくまで現状把握にとどまっており、そこから、安定したサービス品質を実現するための直接的な方法論は生まれない。そこで、筆者らは、サービスの仕組みの信頼性とサービス生産性の双方を向上することを目的として「直接的方法論」を研究している。



3.サービス工学・・・

サービスを「提供者が、対価を伴って、受給者が望む状態変化を引き起こす行為」と定義されている。そして、受給者状態パラメータという観点を出して、「このパラメータが好ましい方向に変化するときに、受給者は満足する」と定義している。すなわち、本質的に主観性が伴っている。したがって、工学的アプローチをするには、「受給者モデル」を明確化する(簡単に言えば、ターゲットを明確にする)ことが必要である。

 次いで、受給者モデルとしての受給者状態パラメータから、サービスを表現するモデルとして、「ビューモデル」「スコープモデル」「フローモデル」という3つのサブモデルからなる表現方法を提示している。ビューモデルとは、個々の受給者状態パラメータから、具体的にアプローチを掛けることができる方法に落とし込むために、機能・属性のグラフで、受給者状態パラメータを表現するものである。スコープモデルとは、個々の受給者状態パラメータの集合であり、受給者全体を描きだすものである。フローモデルとは、サービス提供者から受給者までの全体構造を、サービスを中継するエージェントの存在も含めたフローで描き出すものである。

 筆者らは、これらを実際にサービスCADソフトとして実装している。



4.サービス信頼性のための動的表現

 「ビューモデル」、「スコープモデル」、「フローモデル」の3つは、サービスを静的に把握するものであるが、実際に、サービスが提供されるプロセスをのものを描くものではない。そこで、サービスが提供される過程を描くものとして「拡張Service Blueprint」を提示している。これは、ビジネスモデルを描く表記法の一つであるBusiness Process Modeling Notationと呼ばれる図形描写を用いて、サービスが提供されるダイナミックな過程を表現しようというものである。



5.おわりに・・・略



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要は、ターゲットを明確にすること、顧客のニーズを分析すること、ニーズを自分たちの具体的行動に落とし込むこと、その具体的行動-ニーズの関係を持続可能な形で満足させ続けるための「仕組み」を描き実現すること、という当たり前のことを言っている。ただ、工学的にアプローチするための概念、考え方の方法論として「ビューモデル」「スコープモデル」「フローモデル」「拡張サービスブループリント」という4つの概念を提案している点は着目したい。



この手の話を聞いていつも感じることは顧客のニーズが前提にありき、顧客は神様、という考え方がある点への違和感である。たしかに、企業を利益を上げるための機構と考えるならば、その考え方で十分であるかもしれないが、一般的な人にとって本当にハッピーなこととはどんなことなのかをキチンと判っておかなければならないのではないか?勿論、こんなことの回答は直ぐ出せるものではないが、少なくとも、「人はどういったときに幸福なのか」というものについてのポリシー、それも、自分たちの守備範囲内のみにとどまるポリシーではなく、社会全体の仕組み全体の中で、人がどうなるのがハッピーなのか、を存分に考え続け、その中で、自分たちの守備範囲を位置づけて、どのように、自分たちの守備範囲がハッピーにつながっているかを判っていなければならないのではないか?

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