2012年3月22日木曜日

内発的動機づけに及ぼす課業の複雑さと期待過程の交互作用効果について

[タイトル]
内発的動機づけに及ぼす課業の複雑さと期待過程の交互作用効果について

[著者]
田尾 雅夫

[掲載]
心理学研究, Vol.59, No.2, pp.69-75, 1988

[アブストラクト]
A questionnaire administered to 1391 nurses in big hospitals revealed that they were strongly motivated if they expected good results from their efforts and if they had enough information about what they were supposed to do and how. Satisfactory work situations were characterized by smooth feedback, role clarity and so on. Even nurses who responded to external rewards were internally motivated to carry out complex jobs if they received sufficient information eliminated uncertainty about their roles. Autonomy, or delegated power and responsibility, tended to be motivating only for the nurses who placed high valence on intrinsic rewards, that is, who received encouragement from the accomplishment of the job itself. These results suggested that even those who have more extrinsic needs may be motivated by the complexity of the job. Individual differences in the response to the job may be understood as a matter of information-processing such as the extent of adaptation to the job.

[キーワード]
Expectance, valence, job complexity, job characteristics, internal motivation, information-processing, intrinsic reward

[要約・感想]
(はじめに)
ジョブデザインの個人差仮説があるが・・・
「ジョブデザイン(充実化・拡大化)に対するレスポンスに個人差がある
   →なので、ジョブデザインに好意的に反応する人とそうでない人を検出し、適切に処遇することが重要」
しかし、個人差仮説は実証分析では確実には支持されていない、としている。

そして、「個人差を、あらかじめ個人の内部に組み込まれた変数として捉えるのではなく、状況適合的な行動の際として捉えるべきである。つまり・・・状況に応じて、課業をどのように捉え、どのように対処しているかという各々の個人によって認知された情報の処理過程として把握すべきである」と主張している。つまり、個々で問題にている「個人差」とは、「課業に対する(メンバの)固有の認知過程にもとづく」ものであるとしている。

このようなことから実験仮説として以下のものをあげた。
1. 課業が複雑であるとき、努力がパフォーマンスを生じうるという期待が大きいほど内的に強く動機づけられる。
2. 同様に課業が複雑であるとき、パフォーマンスから得られる報酬の価値、すなわち誘因価が大きいほど、内的に強く動機づけられる。
3. しかし、報酬に至る要因は大きく2つに分けられる。給与や地位、人間関係のような外発的な要因よりも課業そのもののような内発的な要因から得られる報酬の誘因価が大きいほうが、動機づけ効果は一層著しいであろう。

(方法)
職務特性としての課業の複雑さの指標として、自律性、多様性、相互依存性、役割明確性(要するにJDSモデル)
期待認知については6項目の合計
誘因価については以下のとおり。
・・・
誘因価についての質問項目の中で「仕事への生きがい」が自分にとってどの程度重要であるかを5件法で回答を求めている。
そして、誘因価の項目への因子分析から、以下の二つの尺度を作った。
内発的報酬「仕事への生きがい」「実際的な知識や技術の習得」「新しいことを学ぶチャンス」「勝ちある仕事の達成」「自分の創意を生かした仕事をすること」
外発的報酬「十分な給与やボーナス」「雇用の安定」「昇進すること」「同僚と親しい友人になれること」

(結果)
階層的重回帰分析。要するに交互作用項を含めた回帰分析。
こまかくは略

(結論)
ここが結論
「課業それ自体に対する動機付け(論文中のInternal motivation)には二つのアプローチがあるようである。一方は、内発的な欲求(測度としての内発的報酬に高い誘因価をおく人が持っている欲求)に依拠して、非構造的な課業に対処しようとする場合であり、他方は、むしろ外発的な欲求(測度としての外発的報酬に高い誘因価をおく人が持っている欲求)が強いけれども、課業の遂行が間接的ではあるが手段的な意味を有するとすれば、それに積極的に動機づけられる場合である。前者は情報プロセッシングのあいまいさや不確実性に対して相当程度耐えうる(と考えられる)が、後者は、その体制が概して乏しい。(また)達成量や範囲があきらかで(Role Clarity)、成果のフィードバック(Feedback)も容易であるような、状況が可視的になるほど、課業それ自体に動機付けられる」

ここでの面白いのは、「課業それ自体へのモチベーション」は動機の源泉が外発だろうが内発だろうが状況次第で強まるということ。

外発的動機付けとか内発的動機づけとかいった言葉は、モチベーションの源泉が課業に内発的なもの(内在しているもの)への誘因価が高いか、課業に外発的なもの(外的に条件付けられたもの)への誘因価が高いかということと、モチベーションとが一緒くたになった概念として語られているが、この研究では、「モチベーションが高いか低いか」ということと「その源泉が課業に内在しているものか、外的なものか」ということを分けて語っている。

2012年3月21日水曜日

シンポジウム議事録「質的研究について考える」

[タイトル]
シンポジウム議事録「質的研究について考える」
佐藤 郁哉「エスノグラフィーについて」
金井 壽宏「アクションリサーチについて−組織エスノグラフィーと対比しつつ」
松尾 睦 「グラウンデッド・セオリー・アプローチについて」

[著者]

[掲載]
経営行動科学 Vol.24, No.3, pp.212-252, 2012

[アブストラクト]

[キーワード]

[要約・感想]
質的研究についてのシンポジウムの議事録(というか、発言録)
随所にぴんとくる内容がある。

P.214 定量と定性を完全に区別するというのは、そんなに意味がない。

P.216 「数値に血を通わせ、物語に規律を与える」という点が重要

P.218 アンケートとかっていうのは、結局リモート・センシングでしかない

P.218 第一、僕のことも「先生」と呼んでくれる人はもちろんいませんし、それから話の中に笑いが入ってくるんですね。その時のテープは、もちr本記録とってから全部破棄しましたけど。そういうことがあったりすると、やっぱりぜんぜん僕が本で読んだり、アンケートをとったりしているものではわからないことがいいパイあったというのが実感ですね。

P.220 (エスノグラフィーのリスクについて)「俺は見てきたんだ」という現場主義、いい意味での現場主義じゃなく、現場至上主義、「俺が見てきたものが本当だ」というところに陥ってしまう危険性がありはしないのか。・・・「事例について書く」のか「事例を通して何かについて書く」のかという点について分けて考えておく必要があると思います。この2つの間には、当然葛藤があるべきなんですけども、どうしても事例についてだけ書いてしまう、ということがあるという危険性はあると思います。・・・本当は、「で、なんなの?」つまり「So, what?」という問いに答えられるところを目指さなければいけない

P.221 エスノグラフィーは、決して従来の量的方法では解けない謎を解くことができる魔法の杖などではない

P.224 せっかく調べさせていただくのだったら、その結果、その職場、組織体、あるいは産業がよりよくなる方向にプラスになることもができるのが大事だと思っている

P.230 何事がおこったのか調べてくれといわれても、インタビューのしようがないのですよね。そこで、"Tell me what has happened to you" という問いを繰り返し、丁寧にストーリーに耳を傾けるしかありません。・・・「これこれありました」「次、なにがあったんですか?」、そいういう出来事を聞きながら、その出来事が持つ内面的な意味合いを解読していくわけです。

P.231 (アメリカのエスノグラフィーの大家が)お二人とも、先に、実験やサーベイ(質問紙法)、統計学をマスターしてから、質的研究の世界に入っていることに注意すべきでしょう。

P.232 フィールドで自分が行うことは、どんなことだって介入になる・・・ジョンが、ポリスアカデミーにいるだけで、大学の研究者というのを伏せていても介入だし、実は私はエスノグラファーだとなるのだけで、それも介入。・・・(要するに、現場でありのまま見るといっても、結局はすべて介入していることになる)

P.233 もしマリノフスキーが、トロブリアンド諸島を変化するために、介入研究でやってきたと公言して、参加観察研究を始めたらやっぱりおかしいですよね。まず、上から目線になるでしょう。介入という言葉にはネガティブな響きがあるのは、このいいではいいと思うのです。だから、エスノグラファーの原点は変革のための介入よりも、どういう文化なのかを解読・理解・記述することが第一義でしょう。しかし、・・・深く現場に入って調べてもらったら「どんなことがわかりましたか」と聞きたいのが、内部者の人情というものではないでしょうか。

P.234 エスノグラファーとして学びたいという気持ちと、より友達を警察官のように変容させてしまう警察組織を変えたい気持ちがどこかであったとしても不思議ではありません。



「組織開発」という概念が自分の中ですごく印象的。
いかに「ポジティブな介入」をするか。
結果を返すだけでも介入であるのは確か。相手方が「この人たちはこういう方法をわれわれに適用している」という認識がなくても、自分たちは何らかの方法を適用しているんだという認識が必要。
ある意味、それが研究として行っている処方箋なのかもしれない。

関係効力性が二つの愛着機能に及ぼす影響−恋愛関係と友人関係の検討−

[タイトル]
関係効力性が二つの愛着機能に及ぼす影響−恋愛関係と友人関係の検討−

[著者]
浅野 良輔, 吉田 俊和

[掲載]
心理学研究, Vol.82, No.2, pp.175-182

[アブストラクト]
This study investigated how relational efficacy affects functions of safe haven and secure base in romantic relationships and same-sex friendships. Relationship efficacy, which is a shared or intersubjective efficacy of relationship partners, refers to a pair's belief that they can mutually coordinate and integrate their resources to prevent and resolve any problems. Participants were 97 dating heterosexual couples and 119 same-sex friendships. Multilevel structural equation modeling suggested that relational efficacy promotes the safe haven function and the secure base function in romantic relationships and same-sex friendships, controlled for sex, relationship longevity, irreplaceability, attachment anxiety, and attachment avoidance. Additionally, the effects of relational efficacy on the safe haven function and the secure base function in romantic relationships are stronger than in same-sex friendships. These results are discussed in terms of the association between intersubjective processes in close relationships and individuals' hedonic/eudaimonic well-being.

[キーワード]
Relational efficacy, safe haven function, secure base function, close relationships, well-being

[要約・感想]
内容そのものよりも、愛着の二つの機能があるという点に目がいった。
「安全な避難所機能」・・・ストレスフルな状況への対処を促す機能。疲れたり傷ついたりしたパートナーを癒すために迎え入れる機能。
「安全基地機能」・・・未知なる挑戦や学習、発見といった周囲の環境への探索行動を促す機能。新たな活動に取り組もうとしているパートナーを見守り、送り出す機能。

これら二つの機能はレジリエンスの話につながるのではないか?
これらが「愛着関係」というものから来ているということで、愛着を促すにはどうすればよいか。
今回の論文自体は恋愛関係や友人関係なので、内容には興味が行かないけど、これを上司部下関係にもっていくと面白いかも。


まあ、愛着というか信頼関係というか。

さらに、なんとなく。
部下から上司への信頼って、「信頼してくれている」という期待なんだろうな。それの感情的反映として愛着行動などがありえるのかな?
愛着行動といっちゃうと、ちょっとアレなんだけど、信頼感を受けていることをあらわす行動ということ。