2010年2月12日金曜日

目標設定に関わる運用方略の効果性に関する研究の概括

タイトル
目標設定に関わる運用方略の効果性に関する研究の概括
 
著者
野上 真、古川 久敬
 
掲載
産業・組織心理学研究, Vol.23, No.2, pp,129-144, 2010.
 
アブストラクト
We review studies that dealt with goal setting, by focusing not only on the phase of the goal attainment process but also on how goal setting management is carried out. Our findings revealed that goal setting management strategy can be described as falling into three categories i.e., achievement demand (including vision clarification and achievement emphasis), achievement support (including support provision and feedback provision) and promotion of participation. Goal setting management generally had positive effects on goal level, motivation, learning, performance, satisfaction and achievement support and promotion of participation. In contrast only a small number of studies demonstrated the promoting effect of achievement demand. Finally, we posed two research questions for future study and we suggested several implications.
 
要約
<はじめに>
従来研究の問題点:
�目標設定の効果が、「目標設定」の運用にあり方によってどのように影響されるかがあまり検討されてきていない。
�上記と関連し、目標設定の効果を高める上で運用者の関与の仕方の影響についても看過されてきた。
 
本研究の目的:
目標設定の運用方略の特性、および効果に注目しながら、目標設定の効果性に関する従来研究を概観すると共に、今後の研究課題を提示すること。
 
本研究の意義:
1)現実の組織場面における目標設定の効果が生じるメカニズムを明らかにする上で、有益な示唆が得られる。
2)目標設定の効果を促進する上で効果的な、組織における制度運用のあり方について、実践的な示唆が得られる
 
<レビューのフレームワーク>
目標設定の運用は、目標設定段階、目標遂行段階、目標達成度評価段階の3つのフェーズで構成されるものと捉える。
レビューの対象は、目標設定の効果性に関する研究のうち、目標設定の効果性を促進する調整変数として運用方略を扱った理論的実証的研究。
レビューする研究においては、上述の3つのフェーズを通じて支配的な影響力の行使者を運用者と捉える。この捉え方にしたがって、実験研究における研究遂行者も運用者がとする。
 
<目標設定段階における運用方略と効果性の関係>
この段階での運用方略は「方針伝達」「達成強調」「助言提供」「参画促進」の4つ。
 
●方針伝達
方針は理想的な方向性を示すもの。ここまでやれば「完全に達成」という基準を持たない。目標は具体的な「達成されたかどうか」を判定する基準を持つ。
方針伝達の機能は、組織の要求と組織成員の目標のズレを低減させること。運用者によって伝達された方針が、課題遂行者による目標設定の手掛かりとなる。
また、方針が明示されることによって、運用者が何を期待しているかを知り、目標の重要性が高く認知されるようになり、組織成員の仕事に関する意識の方向づけが促進される。
 
●達成強調
一般に、「高い目標を設定するよう勧奨すること」はメンバーの能力に対する信頼を示すものと受け止められ、それによって、成員が自信を高め、組織成員の仕事への意欲や成長の実感が向上する。ただ、達成不可能と成員が感じるような目標設定を勧奨(実体は、強要)されると逆効果となる。以前の業績を元に達成の自信がもてる目標設定を行なうことが必要。また、近年では、目標にはパフォーマンス目標と学習目標の2種類があり、特に、課題達成方略の発見を要求される状況では、学習目標に対置して高いパフォーマンス目標が設定されると、学習に使用されるべき認知的資源が奪われる可能性がある。
 
●助言提供
運用者の支持的態度とは、課題遂行者の目標のレベル向上を介して生産性に「間接的な効果」を持つ。また、運用者が課題遂行者よりも課題達成の道筋についてよく知っている場合、課題の特色や達成方略についての教示を行なうことは、課題遂行者の仕事の進め方についての学習が促進されるだけでなく、課題達成への自信が促進され、課題遂行者のモチベーションや生産性を向上させる。このような課題に関する教示の効果は、課題が具区雑あるいは新規なものである場合特に高くなる。
 
●参画促進
課題が複雑なものや達成の道筋が見えにくいものである場合は、目標設定の効果を高める上で、運用者が目標設定への課題遂行者の参加を促進することの重要性が高くなる。一方で、課題が比較的単純なものである場合、目標設定への課題遂行者の参加認められていなくても、運用者が目標の合理的根拠について説明を行なうことにより、補償的効果が得られる。
 
<目標遂行段階における運用方略と効果性の関係>
この段階での運用方略は「達成強調」「助言提供」「フィードバック提供」「参画促進」の4つ。
 
●達成協調
課題遂行者に目標を意識させ続けるための働き掛けとして必要とされるもの。例えば、「運用者が遂行場面に立ち会っている」という単純な事実が、遂行者に対する運用者の関心の強さを伝達し、圧力として作用すると考えられる。また、単なる達成への圧力を掛けるだけでなく、目標達成への期待を示し、課題達成方略の示唆や、優れた遂行に対する賞賛も行なうこと(以下の「助言提供」を参照)が、ポジティブな効果を持つ。
 
●助言提供
目標遂行段階における運用者の支援や個人的配慮は、遂行者の目標達成への自信や期待感を高め、目標へのコミットメントを促進し、生産性を高める。
 
●フィードバック提供
フィードバックが与えられることにより課題の遂行が促進される。この理由としては、モチベーションの促進と課題達成方略の学習の促進の2つの側面から論じられている。
目標遂行が遅れている課題遂行者がフィードバックを受けると、従来のペースでは目標達成が難しいことを認識し、努力の調整が行なわれるため、課題の遂行が促進される。また、自らの行動の成果を具体的に把握し易い仕事の場合、セルフフィードバックだけでも十分な自己統制が成される可能性があるものと考えられるが、行動の成果が見えにくい仕事の場合、運用者からもたらされるフィードバックは、自己統制が行なわれるために重要な手掛かりとなる。運用者のフィードバックが効果を発揮するには、課題遂行者に受容されることが前提となる。そのための必要条件としては、フィーバック情報に対する信頼性が挙げられる。また、フィードバックが効果を発揮するまでには、ある程度の時間が必要とされる可能性がある。さらに、目標設定の運用者が仕事に関する方針(望ましい行動に関する指針など)を明確にしておくことが、組織成員が目標遂行段階において仕事の成果に関する様々なフィードバックを獲得する上で、促進的効果を持つことを示す結果を得ている。(これは、フィードバック情報に対して自身の評価基準をあたえるものである、あるいは、フィードバック情報そのものに評価情報まで含まれている場合においては、その評価に対する納得感を醸成するものであろう)。
 
●参画促進
課題遂行方法について、課題遂行者の意見を取り入れた方が、MBOにポジティブな効果が生じる。運用者が課題遂行者の意見の出し合いを積極的に「推進する」ことによって、MBOの効果性が促進される。こうした運用者の働き掛けは、単に課題遂行者の意見の出し合いを「容認」することとは異なる。課題遂行者の意見の出し合いを「認め」ても、それを「促す」ための働き掛けが欠如すると、生産性の向上に結びつかない可能性もある。「
 
<目標達成度評価段階における運用方略と効果性の関係>
この段階での運用方略は「助言提供」「フィードバック提供」「参画促進」の3つ。
 
●助言提供
過去のパフォーマンスよりも、改善の可能性がある将来のパフォーマンスに向けさせるような助言が行なわれることが、結果として評価に対する満足感などを高めることが示唆されている。運用者が業績評価に際し、部下の仕事上の弱点を除去する計画作りを助けることが、評価に対する部下の公正感を高めることを示す知見を得た。また、部下の問題解決や、目標設定の相談に乗ることを重視する指導様式が評価プロセスに導入されることにより、フィードバックが個人の成長を助けているという組織成員の認知、また、j評価システム全体への肯定的態度が促進されることを示す結果を得た。また、評価面談のなかで、フィードバックを踏まえた目標設定が行なわれることで、仕事に関する満足感や組織コミットメントが高まることを示す知見を得ている。
 
●フィードバック提供
組織に於いて設定される目標は、業績評価の基準としての意味を持つ。業績評価に於いて、予め設定された目標が活用された度合いが、組織成員の評価に対する満足感や、仕事に関する学習を促進することを示す知見がある。また、目標設定段階において、成果目標を協調しなかった場合よりも、強調した場合の方が、成果が上がらなかった時に運用者が叱責した際の課題遂行者の抵抗感が低くなることを示す結果が得られている。結局、MBOが実施される以上、最終的な達成度評価に於いて目標を基準としたフィードバックの提供がなされることが重要である。
 
●参画促進
業績評価に際し、組織成員の意見表明の機会が確保さえることは、評価の正確さの認知や、評価への満足感、課題の明確化に促進的影響をもたらすことが指摘されている。これは、評価に関する情報のやり取りが活性化することによって、評価の正確さがもたらされること、評価の過程で判断が修正される機会が確保されることで公正感高まること、討論の過程で、将来的に訓練すべきポイントについての分析が促進されること、などによると考えられる。業績評価に関して参画促進がなされることでポジティブな効果がもたらされるが、一方で、仕事における将来的課題の特定に関して参画促進が成されることはポジティブな効果をもたらさない。これは、自分の仕事に関して何が将来的な課題となるか、言い換えれば、現在の自分の仕事における欠陥は何か、について自己批判を行なうことが被評価者にストレスをもたらすことによるかもしれない。
 
 
 

2010年2月9日火曜日

禅的瞑想プログラムを用いた集団トレーニングが精神的健康に及ぼす効果—認知的変容を媒介変数として—

タイトル
禅的瞑想プログラムを用いた集団トレーニングが精神的健康に及ぼす効果—認知的変容を媒介変数として—
 
著者
伊藤 義徳、安藤 治、勝倉 りえこ
 
掲載
心身医学, Vol.49, No.3, pp.233-239
 
アブストラクト
Objective: Recently, the psychotherapies based on mindfulness with the meditation are drawing attentions. The aim of this study is to establish the group training program with Zen meditation, and to experimentally investigate the effect of this program on the mental health of non-clinical samples. Also we have investigated the cognitive factors which are assumed as the active ingredient of the mindfulness training.
Subjects: Twenty non clinical samples who had agreed to the informed consent are selected as participants.
Method: During the 4-week period, participants were instructed to practice the everyday training at home in addition to the group sessions which were held once a week. Participants received the instruction for the meditation training recorded in CD in order to practice whenever they wish.
Results: As the result, it is indicated that the program was effective on mental health as follow; 1) the reduction of depressive tendency, 2) the reduction of thought suppression in the cognitive aspect, 3) the improvement on ability of moderation of catastrophic thinking, 4) the recovering the balance of rational thinking and emotional thinking.
Conclusion: It was suggested that the stress reduction program based on Zen meditation was effective on the mental health of non-clinical participants. The possiblities and limitations of this study are discussed.
 
要約
瞑想プログラムとして、以下のようなプログラムを開発・評価。
1.毎日の練習
        作成した教示用のCDと冊子を用いて、瞑想をする。
        瞑想法は、�息を数える瞑想、�呼吸を意識する瞑想、�ボディスキャン瞑想、�マインドフルネス瞑想、�愛と思いやりの瞑想 (各15分程度)
        瞑想は好きなときに自宅で好きな瞑想方法で好きなだけ行なってよい。
        ただし、最低限のホームワーク(後述)はこなすように指示。
2.集団セッション
        1週間に1回。参加者全員でCDを聞きながら1つの瞑想法を行い、その後参加者同士で感想を話し合う。
        セッションの指導者は極力、介入は避け、参加者からの質問に答える程度とし、参加者の主体性を重視。
 
<実験前の事前説明>
まず最初に以下のような心理教育を行なった。
    瞑想により予想される生理・心理・身体的変化を説明。
    「受け入れることが大事である」ことを説明。
    西洋で注目されていることや、瞑想の考課を検討した研究例の紹介。
 
<指標>
・全般的な精神健康の指標:GHQ-28
・スピリチュアルな精神的態度の指標:PIL
・思考抑制傾向の指標:WBSI
・メタ認知的信念の指標:MCQ
・認知的制御の指標:CC
・理性的思考と感情的思考のバランスの指標:ACS
・状態に関する指標:DAMS(不安抑うつ気分尺度)
 
<ホームワーク>
CDに従い、毎日約20分程度行なう。流れは、�環境を整え、�DAMSに回答、�CDにしたがって瞑想法を行い、�再度DAMSに回答、�感想を記録して終了。
 
<結果>
 
<考察>
長期的には、精神的健康におけるうつ傾向の軽減がみられ、認知的側面においては思考抑制の減少、破局的思考の緩和能力の向上、理性的思考と感情的思考のバランスの回復などといった考課がもたらされることが示された。
 
感想
実際に、これができるといいなぁ〜。。。CRMで使えるかもしれないし、また、自分自身でも普段からやってみたい。
 

パフォーマンスに関する研究の現状と課題

タイトル
パフォーマンスに関する研究の現状と課題
著者
CHAE In-Seok
掲載
産業・組織心理学研究 Vol.23, No.2, pp.117-128, 2010
アブストラクト
Work performance has long been the most important dependent variable in the fields of I/O Psychology and Organizational Behaviors. However, there had been little research accumulation especially about the validity of the construct until the 1980s, which resulted in many undesirable phenomena such as the proliferation of applied research without validity study, the narrow perspective on the consturct, and widening gab between the objective performance scales preferred by researchers and the subjective ones by oranizations. Fortunately, there has been a great development in the theory of performance since the 1990s. This paper reviews its recent theoretical advancements, focusing specifically on the validity study of work performance, its four dimensions, and the future reseach direction.
キーワード
パフォーマンス、妥当性、タスク・パフォーマンス、コンテクスチュアル・パフォーマンス、適応パフォーマンス、反社会的パフォーマンス
要約・感想
<はじめに>
定義:パフォーマンス=組織有効性(Oranizational effectiveness)に対する個人の貢献
(注意:この定義から、あくまで、この論文では「個人のパフォーマンス」を対象としている。ただ、これを参考に、「組織のパフォーマンス」を考えることも可能だろう。)
組織にとってのパフォーマンスの2つの捉え方:
�組織の業績そのものの指標
個人のパフォーマンスの合計
(景気変動などの外的要因を除けば)
�組織の人材マネジメントの有効性の指標
個人のパフォーマンスの合計=組織の業績となるとは限らず、多くの場合、以下の理由によって、それを下回る。
理想的パフォーマンスに対する現状のパフォーマンスの差異が人材マネジメントの有効性の指標。
1)個々人のパフォーマンスがうまく整合していない
2)個々人が状況的・環境的・組織的要因によってベストパフォーマンスが出せていない
論文の構成:以下を展望する。
・パフォーマンスに関する研究の分類
・1980年代までのパフォーマンス研究の問題点
・1990年代以降のパフォーマンス研究の進路
・今後のパフォーマンス研究が取り組むべき課題
パフォーマンスに関する研究の分類>
1.共分散の研究領域
目的:パフォーマンスの規定因の究明
例えば。。。
個人要因・・・個人の能力、性格・態度、など
集団レベルの要因・・・リーダーシップ、集団力学など
組織レベルの要因・・・組織構造、人的資源管理策など
一般に、構成概念は精神活動の産物として「実在」するものでない限り、概念そのものを直接計測は出来ない。このため、研究の便宜上、構成概念を適切に反映していると思われる尺度を工夫し、尺度間の関係を通じて、構成概念間の関係を推測することになる。
この、調べた関係は直接的には尺度(a)と尺度(b)との関係であるが、それを基に、概念(A)と概念(B)との関係を推定・一般化する。すなわち「尺度(a)(b)はそれぞれ、概念A、Bを間違いなく反映している」という仮定が真であるということを前提にしている。この前提がウィークポイントとなる。。
2.妥当性の研究領域
目的:パフォーマンスの規定因を議論する以前の問題として、従属変数たる「パフォーマンス」を測るために用いられる尺度が「適切な」尺度かどうかを検証する研究。(一般的には、構成概念と、それを測るために工夫された尺度との関係を究明しようとする研究領域)
 例えば。。。
個人の販売額や生産量、欠勤率、生産性、上司の主観的評価などが、個人が遂行している仕事の「パフォーマンス」を適切に捉えているかどうか。
基本的には、「この尺度値で示される値を、○○という構成概念と定義する」と決めてしまえば、Fixされるものであるが、ポイントは、その定義がラベルとして、適切なラベルとなっているのか、一般通念で考えてWell-definedといえるかどうか。
⇒2つの検討基準。
� 汚染(contamination)の程度  �不完全さ(deficiency)の程度
「個人のパフォーマンス」測定尺度における汚染度・・・その尺度が個人を越えた状況要因にどの程度左右されるか。状況要因は理想的には0であることが望ましい。
「個人のパフォーマンス」測定尺度における不完全さ・・・その尺度が、パフォーマンスの重要な側面をどの程度反映しているか。個人のパフォーマンスを諮るために工夫された尺度は、それぞれの仕事をこなすために要求されている重要な側面を包括的に反映する尺度で無ければならない。
3.人事考課の研究領域
実際に人事考課でパフォーマンス尺度を適用する際に生じる諸問題に取り組む研究領域。
最大の課題:人事考課の正確さ・公平性。つまり、組織が特定の尺度を用いて人々を評価する際に、定められた期間内に被考課者が実際に成し遂げたパフォーマンスのレベルを、考課者(主に上司)がどのくらい正確に判断できるのか。
より具体的には、以下のような点が課題。。。
�理論的に妥当な尺度があるとして、「良い・悪い」を判断する基準を何処に持っていくのか、
�パフォーマンスを構成する側面が多岐にわたっている場合(複数の尺度の合成によってパフォーマンスが定義された場合)、どのような重み付けをするのか
�尺度値の評価に関する、考課者の諸バイアス(ハロー考課、寛大化傾向、ステレオタイプなど)の除去
�尺度値の評価に対する、被考課者の働き掛け(印象管理など)の除去
�絶対評価VS相対評価、区間尺度VS順位尺度といった評価方法や道具に関する問題
<1980年代までのパフォーマンス研究の問題点>
3つの問題点
�妥当性研究の不在。
独立変数の測定尺度には注意深く検討しながらも、目的とする従属変数(すなわちパフォーマンス)の尺度の妥当性が「便宜的」なものとなっていた。妥当性に掛けた従属変数を用いて独立変数との関係を調べ、仮説どおりの結果が得られたとしても、それは偶然の一致、あるいは、尺度そのものとの関係であって従属変数との関係へと一般化できないものであるにすぎない。逆に、仮説どおりの結果が得られなかったとしても、それは従属変数として用いた尺度が従属変数を正しく反映した尺度でなかったためかもしれない。
�現実と理論のギャップ
人事考課の実務場面で実際に用いられてきた尺度は、直属の上司による主観的評価。一方で、研究者が用いる尺度は量的に測定できる誰の目からも客観的と思われる尺度。つまり、マネジメント現場で実際に用いられてきた尺度とアカデミックな世界で頻繁に使われてきた尺度との間にかなり乖離が存在していた。
�視野の狭さ
仕事には技術的な側面以外に様々な社会・心理的側面が含まれているが故に、個人が組織有効性に貢献する方法が必ずしも職務成果に限られるわけではない。つまり、パフォーマンス=職務成果と捉えるのは視野が狭いのだが、これまでは、この等式に基づいた研究が多かった。
<パフォーマンスの定義>
定義:一定期間にわたり個人が実際に行なっている様々な行動の中で、たまたま組織有効性に貢献する間歇的な行動が組織にもたらす価値の総合
ポイント
�パフォーマンスを成果ではなく行動で捉えている点。成果は状況要因の影響が強いため、結果で個人を評価すると不公平が生じる可能性がある。このため、近年のパフォーマンス研究者たちは結果と行動とを厳密に区分し、行動だけをパフォーマンスとして捉えている。
�組織の価値判断入っている点。個人の行動はすべてがすべてパフォーマンス行動とは言えないし、逆に同じ行動でも、組織有効性に対する貢献の度合いは、組織がどのようなことに価値を置いているかに依存する。あくまで、組織の目標達成や有効性に貢献する行動だけがパフォーマンス行動だけがパフォーマンス行動である。
�パフォーマンス行動は間歇的に起こる。パフォーマンス行動は一定期間中、ずっと連続的に起こるのではなく、実際には、集中が高まる場合と下がる場合とで浮き沈みがある。
�パフォーマンス行動は概念的に異なるいくつかの下位次元で分類できる、多面的な概念である。
<パフォーマンスの4次元>
�タスク・パフォーマンス(職務成果(Job Performance))
より細かくは以下の2つに分けられる。
直接部門・・・インプットをアウトプットに変換し顧客に提供する一連のプロセスに直接係わる職務関連行動。
間接部門・・・インプットをアウトプットに変換するプロセスをサポートする人々の職務関連行動。
�コンテクスチュアル・パフォーマンス
自分自身のタスク・パフォーマンスを低める可能性がある一方で、より働き易い職場作りや雰囲気作りに貢献し、一緒に働く人々のタスク・パフォーマンスを高め、結果的に組織有効性に貢献するような行動。
お互いの調整やコミュニケーション、
協力・協同行動、
既存の役割を超えた行動、組織市民行動など。
�適応パフォーマンス
組織を取り巻く環境や、個人を取り巻く環境の変化に適応していくために個々人が取る行動。
具体的には、
変化がもたらす新しい問題や複雑な課題を創造的に解決する行動
変化のもたらす不確実で予測しなかった事態や状況にうまく対処する行動、
変化によって新たに求められる知識やスキルをすばやく身につける行動、
組織の変化に伴う人間関係の変化にうまく適応する行動、
変化によって生じるストレスにうまく対応する行動       など。
�反社会的パフォーマンス
組織の有効性を阻害する個人の行動。ネガティブな行動。ここから逆説的に、組織や社会のルール・規範を遵守することもパフォーマンスと考えられる。
無礼な行動
組織のルールや規範を意図的に無視し、組織や他人に損害を与える逸脱行動
背任行為
ただ乗り、社会的手抜き
組織から要求されている努力を意図的にサボる行動
組織の合法的な利害に反する個人の意図的な行動として定義される反生産的行動
組織のルールや規則を破ってはいないが社会のルールや規範を破ることによって結果的に組織有効性に大きなダメージを与える非倫理的・反社会的行動
<功績と課題>
�4つの次元の弁別妥当性
コンテクスチュアル・パフォーマンスと適応パフォーマンスの弁別性
コンテクスチュアル・パフォーマンスと反社会的パフォーマンスの弁別性
もし、これら2つの弁別性が認められないのであれば、これら2つはコンテクスチュアル・パフォーマンスに統合されるべきである。
⇒ 因子分析などによって各次元の規定要因の分析
もし、分析の結果、明確に異なる次元として表れる必要があると共に、要因が互いに異なっているか、あるいは、同じ要因が含まれていたとしてもその関係のパターンが明確に異なっていることが明らかでなければならない。
�状況要因の取扱い
パフォーマンスを結果ではなく行動と捉えるようにしたのは、状況要因による尺度の汚染を防ぐためであったが、たとえそうしたとしても、行動すらも結局状況の影響を受ける。気の合う上司の下では、部下は生き生きとしてタスク、コンテクスチュアル、適応パフォーマンス行動を積極的に取るのに対して、そうでない場合には、パフォーマンス行動を取りたくても取れない(心理的に取れない)状況に置かれているかもしれない。Griffin&Hesketh(2003)では、組織のサポート、死後tの複雑性や仕事における自律性などの個人にとっては状況とも言うべき変数に対する個人の認知が、能力や正確といった個人差変数に比べ適応パフォーマンスにより多くの影響を与えていると報告している。
感想
パフォーマンスを「成果」でなく「行動」と捉えるところは新鮮。確かに行動の結果は状況に左右される。そういう意味では、「良い結果が得る」という志向性を前提として「行動」を取ること自体に意味を見出そうとする考えは分からなくはない。ただ、「行動」だけを取り上げると、形だけを取り繕うパターンも出てこよう。そういう意味では、「成果」「行動」「マインド」の3つでもって「個人のパフォーマンス」という概念を構成すべきだと思うのだが・・・。少なくとも、「成果」はあくまで「行動」から期待されるものとして外すとしても、やはりマインドが無ければ行動から期待される成果は組織にとって有用なものではない場合もあるのではないか。・・・とここで、ただ行動を機械的に行なっても結果が伴うような形でシステムを形作ることも可能といえば可能か。ただ、そうしてしまうと、うっかりミスや手抜きも生じ得る。やはり「マインド」が必要なんじゃないかな。

追加:2010/2/10
パ フォーマンスを行動として考えるとして、「パフォーマンスが良い」とは、状況によって結果は異なるとしても、「現状の状況が継続する」、あるいは「予測さ れた状況が来る」という前提であれば、組織の有効性向上に資するような良い結果がであろうことを期待させる行動をとること。

では、その行動とは具体的には何??
どういった行動がそれに該当するの??
その行動がそういう期待を抱かせる根拠は?
結局、ここで価値観が効いてくるということか。
あるいは行動の説明責任が求められる。
すくなくとも「考える」ことが必要である。

2010年2月5日金曜日

不祥事報道において有効なコミュニケーションとは?:信頼の回復における感情的説得と論理的説得の効果

タイトル
不祥事報道において有効なコミュニケーションとは?:信頼の回復における感情的説得と論理的説得の効果
 
著者
杉谷 陽子
 
掲載
産業・組織心理学研究, Vol.23, No.2, pp.91-101, 2010.
 
アブストラクト
The purpose of this study was to investigate how, after the scandal of a company is made public, the company should communicate the facts of the scandal and apologize for it to its consumers in order to restore trust. Previous studies have shown that trust is composed of two dimenstions: the integrity -based dimension and the professional ability-based dimension.  In this study, the author proposed that the former dimension is based on one's feelings, while the latter dimension is found on knowing the fact, such as the objective factual data. The hypotheses of the study were as follows. If a company publishes an apology in a newspaper or has it reported on television, (1) emphasizing the emotinal message, as opposed to stressing on the logical aspect, would be more effective in restoring the integrity-based trust, and (2) the reverse would be true in the case of restoring the professional ability-based trust. The experiment mostly supported these hypotheses. The implications of the results for the theory of attitude and trust were also discussed.
 
キーワード
信頼, 不祥事, 説得, 広報戦略
 
要約
<研究の目的:>
企業が消費者から信頼を得るための具体的な方略をさぐること。具体的には、企業の不祥事が報道された場面を取り上げ、どのようなコミュニケーションを行なえば、消費者からの信頼を維持、回復できるのかを、実証的手法(既往研究を元にして仮説を立て、被験者実験を通じて仮説を実証する)によって明らかにする。
 
<立案した仮説:>
�「誠実さ」に基づく信頼は、感情的にアピールする説得メッセージを読んだときに、感情的にアピールしないメッセージを読んだときよりも高くなるだろう。一方で、メッセージに論拠が示されていたかどうかには影響されないだろう。
�「能力」に基づく信頼は、論拠をアピールする説得メッセージを読んだときに、論拠をアピールしないメッセージを読んだときよりも高くなるだろう。一方で、メッセージが感情的にアピールするものであったかどうかには影響されないだろう。
 
<方法>
実際の不祥事についての新聞報道記事を「実験刺激」として利用。具体的には、記者による事件の経緯の説明と洋菓子販売再開に当たっての安全対策についての説明、ならびに、当事会社側からの謝罪の言葉の原文。この刺激を呼んで、それに対する「反応」として「どの程度、この会社を信頼できるか」を調べる。
 
被験者は大学生160名。感情的アピールの強・弱×論理性の高・低 の4条件で、大学生はランダムでそれぞれの条件に割り振られた。
 
条件操作方法について、仮説�に関しては、感情的なアピール度のコントロールとして、感情的なアピールが強い条件については、「謝罪文は一般社員(被験者に立場が近い)が道行く消費者に発したもの」という教示をし、弱い条件については「謝罪文はオフィシャルな記者会見で、社長が発したもの」という教示を与える、という形とした。これは、「文章に感情が込められていると受け取るかどうか」は、「発信者と自分との間の立場的な距離」と関係しており、立場が近いと感じられる他者が発したものだと、人はそのメッセージにこめられた感情(謝罪の気持ち)をより現実感を持って捉えることが出来るというという仮説を前提としている。
 
仮説�の条件操作については、当事会社が実施した安全対策について、「論理性が高い」条件では、第三者機関から監査を受け、さらに、AIBと呼ばれる衛生基準を導入したことを明記した説明を記事に書き込み、「論理性が低い」条件では、単に「(経営陣が)安全であると判断した」としか書かなかった。
 
質問紙は、既往研究で出されている信頼性尺度を用いた。具体的には、「あなたは、今のホームページを見て、F社に対してどんな印象を持ちましたか」という質問に対して、
 
  1. 「好感が持てる」、
  2. 「技術力がある」、
  3. 「無責任だ(逆転項目)」、
  4. 「失敗を克服できる」、
  5. 「良心的だ」、
  6. 「情報力がある」、
  7. 「事件について反省している」、
  8. 「専門知識がある」、
  9. 「消費者の利益のために努力している」、
  10. 「製品の質が良い」、
  11. 「正直な」、
  12. 「消費者の視点に立っている」、
  13. 「同じような事件を繰り返す」
のそれぞれに回答する(段階数は不明)。
 
<結果>
因子分析の結果、「同じような事件を繰り返す」のみ除外され、その他の項目で、1,5,3,11,12,7,9が第一因子で、「誠実さ」に基づく信頼とみなした(α=.84)。一方、2,8,10,6,4が第2因子で、「能力」に基づく信頼とみなした(α=.71)
実験操作については分析の結果、成功していたとみなした。(詳細は略)
仮説の実証については、以下の通り。
  • 誠実さに基づく信頼の尺度に於いては、感情性による有意な主効果が見られ、感情性の高いメッセージの方が感情性の低いメッセージよりも「誠実さ」に基づく信頼の評価が高かった(p<.01)。交互作用、論理性と「誠実さに基づく信頼」の主効果は、共に無かった。⇒仮説�は支持された。
  • 能力に基づく信頼の尺度に於いては、論理性の高低による主効果が有意傾向であった。論理性の高いメッセージの場合、低いメッセージよりも能力に基づく信頼性の認知が高かった。交互作用、感情性と「能力に基づく信頼」の主効果は無かった。⇒仮説�は限定的では在るが、支持された。